メタバースとは?意味や仕組み 始め方を初心者向けに解説

メタバースとは?、意味や仕組み、始め方を初心者向けに解説

近年、ニュースやWebメディアで「メタバース」という言葉を目にする機会が急激に増えました。未来のインターネットの形とも言われ、世界中の企業が巨額の投資を行うなど、大きな注目を集めています。しかし、「メタバースとは一体何なのか?」「VRと同じこと?」「どうやって始めたらいいの?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

この記事では、メタバースの基本的な意味や仕組みから、注目されている理由、具体的な活用方法、そして初心者でも安心して始められる手順まで、網羅的かつ分かりやすく解説します。この記事を読めば、メタバースの全体像を掴み、その可能性と未来について深く理解できるでしょう。

メタバースとは?

メタバースとは?

まず、メタバースという言葉の基本的な意味と定義、その歴史的背景、そして混同されがちなVR(仮想現実)やAR(拡張現実)との違いについて詳しく解説します。

メタバースの意味と定義

メタバース(Metaverse)とは、「超越」を意味する「メタ(Meta)」と、「世界・宇宙」を意味する「ユニバース(Universe)」を組み合わせた造語です。一般的には、インターネット上に構築された、アバターと呼ばれる自分の分身を介して人々が交流し、経済活動や社会活動を行うことができる三次元の仮想空間を指します。

現在、メタバースには世界共通の明確で統一された定義があるわけではありません。しかし、多くの専門家や企業が提唱するメタバースの概念には、いくつかの共通する重要な要素が存在します。

  • 永続性(Persistence): ユーザーがログアウトしても、その空間は存在し続け、時間が流れ続けます。現実世界と同じように、他のユーザーが活動を続けており、空間自体も変化していきます。
  • 同時性・同期性(Synchronicity): 多くのユーザーが同じ空間にリアルタイムで存在し、同じ体験を共有できます。現実のイベントのように、特定の時間に集まって同じライブを観たり、会話したりすることが可能です。
  • アバター(Avatar): ユーザーは自身の「分身」であるアバターを操作して、仮想空間内を自由に移動し、他者とコミュニケーションを取ります。アバターは、リアルな人間そっくりに作ることも、アニメキャラクターや動物など、現実とは全く異なる姿にすることも可能です。
  • 経済活動(Economy): 空間内には独自の経済圏が存在します。ユーザーは、デジタルアイテムや土地、アバター用の衣服などを制作・売買したり、サービスを提供したりして、現実世界でも通用する通貨や暗号資産(仮想通貨)を稼ぐことができます。
  • 創造性(Creativity): ユーザーは単なる消費者ではなく、空間そのものや、その中で使われるアイテム、ゲームなどを自ら創造し、世界を構築していくことができます。このユーザー生成コンテンツ(UGC: User Generated Content)がメタバースの発展を支える重要な要素です。
  • 没入感(Immersiveness): VRゴーグルなどのデバイスを使うことで、まるでその場にいるかのような高い没入感を得られます。視覚や聴覚を仮想空間に完全にシンクロさせることで、現実世界とは異なる体験ができます。
  • アクセス性(Accessibility): スマートフォンやパソコン、ゲーム機など、様々なデバイスからアクセスできることが理想とされています。特定のデバイスに限定されず、誰もが気軽に参加できる環境が整いつつあります。

これらの要素が組み合わさることで、メタバースは単なるオンラインゲームやコミュニケーションツールを超えた、「もう一つの現実」としての社会性や経済性を持つ空間となります。それは、私たちが仕事をし、遊び、学び、創造する、新たな生活の舞台となる可能性を秘めているのです。

メタバースの語源と歴史

「メタバース」という言葉が初めて登場したのは、1992年にアメリカのSF作家ニール・スティーヴンスンが発表した小説『スノウ・クラッシュ』の中でした。この小説では、人々がゴーグルとイヤホンを装着し、「メタバース」と呼ばれる仮想現実空間でアバターとして交流する未来が描かれており、現在のメタバースの概念の原型となっています。

小説の発表後、この概念に影響を受けた様々なサービスが登場しました。その中でも、2003年に米リンデンラボ社がリリースした『Second Life(セカンドライフ)』は、初期のメタバースの代表例として広く知られています。ユーザーは「レジデント」として仮想世界に参加し、他のユーザーとの交流、アイテムの制作・売買、イベントの開催など、まさに「第二の人生」を送ることができました。一時は世界的なブームとなり、仮想空間内の通貨「リンデンドル」は現実の米ドルと換金でき、多くの企業が仮想空間内に支店を出すなど、大きな注目を集めました。しかし、当時の技術的な制約(要求されるPCスペックの高さ、操作の複雑さなど)から、ブームは次第に沈静化していきました。

その後、技術は着実に進化を続けます。スマートフォンの普及、通信速度の向上(4G、5G)、グラフィック処理能力の飛躍的な向上、そしてVR/ARデバイスの登場が、メタバースの概念を再び現実のものとして引き寄せました。

2010年代後半になると、『Fortnite(フォートナイト)』や『Roblox(ロブロックス)』といったオンラインゲームが、単なるゲームの枠を超えて、アーティストのバーチャルライブやブランドとのコラボイベントなどを開催する巨大なソーシャルプラットフォームへと進化しました。これらのプラットフォームは、数億人規模のユーザーを抱え、「ゲームプラットフォーム型メタバース」として若者を中心に絶大な支持を得ています。

そして2021年、Facebook社が社名を「Meta(メタ)」に変更し、メタバース事業に巨額の投資を行うことを発表したことで、この言葉は世界的なバズワードとなりました。これを機に、IT業界だけでなく、様々な業界がメタバースの可能性に注目し、本格的な参入を表明するようになったのです。『スノウ・クラッシュ』で描かれた未来が、約30年の時を経て、いよいよ現実のものになろうとしています。

メタバースとVR・ARの違い

メタバースについて語る際、VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)という言葉が頻繁に登場するため、これらの違いが分からず混乱してしまう方も少なくありません。結論から言うと、メタバースは「空間・概念」であり、VR/ARはそれを体験するための「技術・手段」です。両者は目的と手段の関係にあります。

項目 メタバース (Metaverse) VR (Virtual Reality) AR (Augmented Reality)
分類 空間・概念 技術・手段 技術・手段
意味 インターネット上の3D仮想空間。社会・経済活動が行われる場。 現実世界とは切り離された、100%デジタルの仮想世界を体験する技術。 現実世界の映像にデジタル情報を重ねて表示し、世界を拡張する技術。
体験 アバターを介して空間内で他者と交流し、様々な活動を行う。 完全に仮想空間に没入する。 現実の風景の中に、デジタル情報(キャラクター、ナビゲーション等)が出現する。
主なデバイス PC、スマホ、VRゴーグルなど VRゴーグル、ヘッドマウントディスプレイ スマートフォン、スマートグラス
具体例 VRChat, Robloxなど VRゲーム、VR映像コンテンツ Pokémon GO, ARフィルターなど

VR(仮想現実)とは、専用のゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)を装着することで、視界が360度すべてCGなどで作られた仮想空間に覆われ、まるでその世界に入り込んだかのような没入体験を可能にする技術です。現実世界の情報は遮断され、完全にデジタルな世界に「ダイブ」するイメージです。メタバースを最も深く体験する方法として、VRは非常に重要な役割を担います。VRゴーグルを使えば、アバターの視点と自分の視点が一致し、手を動かせばアバターの手が動き、周りを見渡せば仮想空間の風景が広がるため、圧倒的な臨場感が得られます。

一方、AR(拡張現実)とは、スマートフォンやスマートグラスを通して現実世界の風景にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。現実世界が主体であり、そこに情報を「付け加える(Augment)」ことで、現実をより便利に、より楽しく拡張します。大ヒットしたスマートフォンゲーム『Pokémon GO』をイメージすると分かりやすいでしょう。現実の街並みにポケモンのCGが出現し、捕まえることができます。ARは、ナビゲーションや家具の試し置き、顔にエフェクトをかけるカメラアプリなど、日常生活の中で幅広く活用されています。

つまり、メタバースという「仮想空間(目的地)」に行くための「乗り物」の一つがVRゴーグルであり、VR技術によってその体験の質が飛躍的に向上します。また、AR技術を使って、現実世界にメタバースの友人アバターを呼び出して一緒に写真を撮る、といった連携も考えられます。

このように、メタバース、VR、ARはそれぞれ異なる概念ですが、互いに密接に関連し合いながら、私たちのデジタル体験をより豊かにしていく技術なのです。

メタバースが注目されている3つの理由

テクノロジーの進化とデバイスの普及、新型コロナウイルスによる生活様式の変化、NFT・ブロックチェーン技術の発展

なぜ今、メタバースはこれほどまでに世界中から熱い視線を浴びているのでしょうか。その背景には、テクノロジーの進化、社会情助勢の変化、そして新たな経済圏の誕生という、大きく分けて3つの要因が絡み合っています。

① テクノロジーの進化とデバイスの普及

メタバースが現実的なものとして語られるようになった最大の理由は、それを支える関連技術が成熟し、一般ユーザーの手の届く範囲にまで普及してきたことです。かつて『Second Life』が直面した技術的な壁は、この10年あまりで大きく取り払われました。

第一に、通信技術の飛躍的な進化が挙げられます。高品質な3Dグラフィックスで構成されるメタバース空間では、膨大なデータのやり取りがリアルタイムで発生します。これをスムーズに行うには、高速・大容量・低遅延な通信環境が不可欠です。5G(第5世代移動通信システム)の商用化により、モバイル環境でも遅延の少ない快適なメタバース体験が可能になりつつあります。これにより、場所を選ばずに仮想空間へアクセスできる道が開かれました。

第二に、コンピュータの処理能力の向上です。特に、3Dグラフィックスを描画するGPU(Graphics Processing Unit)の性能は驚異的なスピードで向上しています。これにより、映画のようなリアルで美しい仮想空間を、個人のパソコンやゲーム機でも滑らかに動かせるようになりました。スマートフォンのチップ性能も向上し、手軽なデバイスでも一定品質のメタバースを体験できるプラットフォームが増加しています。

そして第三に、VR/ARデバイスの進化と低価格化です。かつてVRゴーグルは、数十万円以上する高価な機器であり、設定も複雑で専門家や一部の愛好家のためのものでした。しかし、近年ではMeta社の「Meta Quest」シリーズに代表される、数万円台で購入できる高性能なスタンドアロン型VRゴーグルが登場しました。これらはPCに接続する必要がなく、単体で動作するため、誰でも手軽に高品質なVR体験を始められます。デバイスの普及は、メタバースのユーザー人口を拡大させる上で決定的な役割を果たしています。

これらの技術的基盤が整ったことで、かつてはSFの世界の絵空事だったメタバースが、いよいよ現実的な次世代プラットフォームとして離陸する準備が整ったのです。

② 新型コロナウイルスによる生活様式の変化

2020年初頭から世界を席巻した新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、私たちの生活や働き方を根底から変えました。外出制限やソーシャルディスタンスの確保が求められる中で、物理的な接触を伴わないコミュニケーションや経済活動の需要が爆発的に高まりました。この社会情勢の変化が、メタバースの価値を再認識させ、普及を後押しする大きな追い風となったのです。

リモートワーク(テレワーク)が急速に普及しましたが、従来のWeb会議システムでは、相手の表情や雰囲気が掴みにくく、偶発的な雑談も生まれにくいといったコミュニケーション上の課題が浮き彫りになりました。これに対し、メタバース上のバーチャルオフィスでは、アバターを介して同僚の存在を感じながら仕事ができ、気軽に声をかけて雑談をしたり、ホワイトボードを囲んで共同作業をしたりと、現実のオフィスに近い感覚でコミュニケーションを取ることが可能です。これにより、リモートワークの課題であった孤独感やコミュニケーション不足の解消が期待されています。

また、音楽ライブ、展示会、学術会議といった大規模なイベントも、軒並み中止や延期を余儀なくされました。その代替手段として、メタバース空間でのバーチャルイベントが注目を集めました。メタバースイベントは、物理的な会場のキャパシティや地理的な制約を受けません。世界中のどこからでも参加でき、アバターを通じて一体感を味わうことができます。アーティストが観客の目の前でパフォーマンスを繰り広げたり、参加者同士で感想を語り合ったりと、オンラインでありながらリアルに近い熱狂と交流を生み出すことに成功しました。

このように、パンデミックによって物理的な制約が浮き彫りになったことで、時間や場所、身体的な制約から解放された活動の場としてのメタバースの有用性が広く認識されるようになりました。これは単なる現実の代替ではなく、むしろ現実世界では不可能だった新しい体験やコミュニケーションの形を生み出す可能性を秘めています。

③ NFT・ブロックチェーン技術の発展

テクノロジーの進化と社会情勢の変化に加え、メタバースの経済的な側面を飛躍的に進化させたのが、NFT(非代替性トークン)とブロックチェーン技術の発展です。これにより、メタバースは単なるコミュニケーション空間から、本格的な経済活動が行われる「価値ある空間」へと変貌を遂げました。

これまでのデジタルデータは、簡単にコピー(複製)が可能でした。例えば、デジタルアートの画像データは、誰でも簡単にコピーして保存できるため、そのデータに唯一無二の「所有権」を持たせることは困難でした。しかし、ブロックチェーン技術を基盤とするNFTは、デジタルデータに鑑定書や所有証明書のような情報を付与し、それが「唯一無二の本物である」ことを証明してくれます。

このNFTがメタバースと結びつくことで、革命的な変化が起きました。

  • デジタル資産の所有: メタバース内の土地(LAND)、建物、アバターが着るファッションアイテム、アート作品などをNFTとして購入することで、ユーザーはそのデジタル資産の完全な所有権を持つことができます。この所有権はブロックチェーン上に記録され、誰にも改ざんされたり、プラットフォーム運営者に一方的に削除されたりすることはありません。
  • クリエイターエコノミーの活性化: ユーザーは自ら制作した3Dアイテムやアート作品をNFTとして販売し、収益を得ることができます。これにより、特定の企業だけでなく、個人クリエイターがメタバース内で経済的に自立できる「クリエイターエコノミー」が生まれました。
  • 相互運用性(インターオペラビリティ)への期待: 将来的には、あるメタバースで購入したNFTアイテムを、別のメタバースでも利用できるようになる「相互運用性」が期待されています。例えば、Aというゲームで手に入れた特別な剣を、Bというソーシャル空間でアバターに装備させるといったことが可能になるかもしれません。

このように、NFTとブロックチェーンは、メタバース内に「本物の経済」を創り出すための根幹技術です。デジタルなモノやサービスに、現実世界と同じように希少性や所有権という価値が生まれ、それが自由に取引される。この新しい経済圏の誕生こそが、多くの企業や投資家がメタバースに未来を見出し、熱狂する大きな理由の一つなのです。

メタバースでできること

ゲームやエンターテイメント体験、アバターを介したコミュニケーション、音楽ライブや展示会などのイベント、ショッピングなどの経済活動、ビジネスでの活用(会議・研修など)、オリジナルコンテンツの制作・販売

メタバースは、単なる仮想空間ではなく、私たちの生活のあらゆる側面に関わる可能性を秘めたプラットフォームです。ここでは、具体的にメタバースでどのようなことができるのか、代表的な6つの活用例を詳しく見ていきましょう。

ゲームやエンターテイメント体験

メタバースと最も親和性が高い分野の一つが、ゲームやエンターテイメントです。従来のゲームが決められたルールの中で遊ぶものだったのに対し、メタバースにおけるゲーム体験はより自由で、社会的です。

例えば、広大なオープンワールドの中で、世界中のプレイヤーたちとチームを組んで冒険に出たり、巨大な建築物を作ったり、プレイヤーが自作した無数のミニゲームを遊び尽くしたりすることができます。ゲームをプレイすること自体が、他者とのコミュニケーションや自己表現の手段となっています。

また、『Fortnite』が有名アーティストのバーチャルライブを開催して数千万人を動員したように、メタバースは新しいエンターテイメント体験の舞台にもなっています。VRゴーグルを装着して参加すれば、最前列でアーティストのパフォーマンスを体感したり、現実ではありえないようなド派手な演出を360度楽しんだりといった、没入感の高い体験が可能です。ゲームと音楽、そしてソーシャルな体験が融合した、全く新しいエンターテイメントの形がここにあります。

アバターを介したコミュニケーション

メタバースの根幹をなすのは、アバターを介したユーザー同士のコミュニケーションです。友人とおしゃべりをする、新しい友達を作る、サークル活動に参加する、共通の趣味について語り合うなど、その可能性は無限大です。

テキストチャットやビデオ通話と異なり、メタバースではアバターの身振り手振りや空間的な位置関係を通じて、よりノンバーバル(非言語的)で豊かなコミュニケーションが生まれます。相手のアバターが隣にいるという感覚は、不思議な親近感や一体感をもたらします。

さらに、アバターの姿は自由自在に変えられます。現実の自分の姿に似せることも、理想の姿や、性別、年齢、国籍を超えた全く異なる存在になることも可能です。これにより、外見や社会的属性といった現実世界のしがらみから解放され、内面で繋がりやすいという特徴があります。普段は内気な人でも、アバターの姿を借りることで積極的に発言できたり、現実世界では出会えないような多様なバックグラウンドを持つ人々と、対等な立場で交流を深めたりすることができます。これは、メタバースが提供する最も大きな価値の一つと言えるでしょう。

音楽ライブや展示会などのイベント

前述の通り、メタバースは大規模なイベントを開催するプラットフォームとして非常に優れています。

音楽ライブやフェスティバルでは、物理的な会場の収容人数や、地理的な制約が一切ありません。世界中のファンが同時に同じ空間に集い、熱狂を共有できます。演出も自由自在で、アーティストが巨大化したり、空を飛んだり、ステージが次々と変化したりと、現実では不可能なスペクタクルなショーを実現できます。

アートギャラリーや美術館では、作品を立体的に展示し、作者の意図をより深く伝えることができます。来場者は作品に近づいて細部を鑑賞したり、アバターで集まった他の鑑賞者と感想を語り合ったりできます。

企業向けの展示会やカンファレンスも、メタバース上で開催されるケースが増えています。参加者はアバターで会場を歩き回り、興味のあるブースを訪れて製品の3Dモデルを手に取って確認したり、担当者のアバターから直接説明を受けたりできます。移動時間やコストを削減できるだけでなく、参加者データの分析など、デジタルならではのメリットも享受できます。

ショッピングなどの経済活動

メタバースは、新しいショッピング体験と経済活動の場を提供します。

ユーザーは、仮想空間内に再現されたバーチャル店舗を訪れ、アバターを操作して商品を眺め、買い物を楽しむことができます。例えば、アパレルブランドの店舗では、新作の服を自分のアバターに試着させて、サイズ感やコーディネートを確認してからオンラインで購入する、といった体験が可能になります。

また、メタバース内で完結する経済活動も活発です。その中心となるのが、アバター用のファッションアイテムやアクセサリーの売買です。ユーザーは、クリエイターが制作した多種多様なデジタルファッションを購入し、自分のアバターを個性的にカスタマイズします。人気クリエイターになれば、これだけで生計を立てることも夢ではありません。

さらに、NFT技術と結びついたデジタルアセット(資産)の取引も行われています。『The Sandbox』や『Decentraland』といったブロックチェーンベースのメタバースでは、仮想空間内の土地(LAND)がNFTとして売買されており、高額で取引されるケースも少なくありません。ユーザーは購入した土地の上に建物を建ててイベントを開催したり、他のユーザーに貸し出したりして収益を得ることができます。

ビジネスでの活用(会議・研修など)

エンターテイDメントだけでなく、ビジネスシーンでのメタバース活用も急速に進んでいます。

最も一般的なのが、バーチャル会議やバーチャルオフィスとしての利用です。アバターで同じ空間に集まることで、ホワイトボードに書き込みながらブレインストーミングを行ったり、3Dの製品モデルを全員で囲んでレビューしたりと、2Dの画面で行うWeb会議よりも一体感のあるコラボレーションが可能です。

研修やトレーニングの分野でも、メタバースは大きな可能性を秘めています。例えば、製造業の現場作業員向けに、危険な作業を仮想空間で安全にシミュレーションする研修。小売店の接客スタッフ向けに、様々なお客様への対応をアバターでロールプレイングする研修。医療現場向けに、複雑な手術の手順を3Dモデルでリアルに体験するトレーニングなど、現実ではコストや危険が伴う訓練を、何度でも安全かつ効果的に実施できます。

また、建築や不動産業界では、建設前の建物の完成イメージをメタバース内に再現し、クライアントが中を歩き回って内装やデザインを確認する「バーチャルモデルルーム」として活用されています。これにより、設計段階での手戻りを減らし、顧客満足度を高めることができます。

オリジナルコンテンツの制作・販売

メタバースの大きな特徴は、ユーザーが単なる消費者(Consumer)であるだけでなく、創造者(Creator)にもなれる点です。多くのメタバースプラットフォームには、ユーザーが独自のコンテンツを制作し、それを世界中の人々と共有したり、販売したりするためのツールが用意されています。

例えば、『VRChat』では「ワールド」と呼ばれる独自の仮想空間を自由に制作できます。自分の理想の部屋、美しい風景、ギミック満載のアスレチックコースなど、プログラミングの知識がなくても、直感的なツールを使って思い描いた世界を形にすることが可能です。

ゲームプラットフォームの『Roblox』では、ユーザー自身がゲームを開発し、公開することができます。そこで生み出されたゲームが人気を博せば、プラットフォーム内通貨を通じて開発者が収益を得られる仕組み(クリエイターエコノミー)が確立されています。

3Dモデルの制作も盛んです。アバター本体や、その衣服、アクセサリー、家具といったアイテムを制作し、マーケットプレイスで販売します。優れたクリエイターの作品は高い人気を誇り、大きな収益源となり得ます。メタバースは、誰もがクリエイターとして自分の才能を発揮し、それが経済的な価値に繋がる、新しい時代のキャンバスなのです。

メタバースの始め方3ステップ

プラットフォームを選ぶ、必要なものを準備する、アカウントを作成してログインする

メタバースと聞くと、何か特別な知識や高価な機材が必要だと感じるかもしれませんが、実は多くのプラットフォームは誰でも気軽に始められます。ここでは、初心者がメタバースを始めるための基本的な3つのステップを解説します。

① プラットフォームを選ぶ

メタバースを始めるにあたって、最初のステップはどのメタバースプラットフォームで遊ぶかを選ぶことです。メタバースと一言で言っても、その目的や特徴は様々です。自分がメタバースで何をしたいのかを考え、それに合ったプラットフォームを選びましょう。

  • コミュニケーションや交流がしたい: 世界中の人々と雑談したり、友達を作ったりしたいなら、『VRChat』や『cluster』のようなソーシャル系のプラットフォームがおすすめです。特に『cluster』はスマートフォンからでも手軽に参加できるため、初心者には最適です。
  • ゲームを中心に楽しみたい: ゲームをプレイしたり、自分でゲームを作ったりしたいなら、『Roblox』や『Fortnite』が代表的です。これらはゲーム性が高く、ユーザーが作成したコンテンツが豊富にあります。
  • アバターファッションを楽しみたい: 自分のアバターを可愛く、または格好良くカスタマイズすることに興味があるなら、『ZEPETO』や『REALITY』が良いでしょう。スマートフォンに特化しており、手軽にアバター作成や着せ替え、ライブ配信が楽しめます。
  • NFTや経済活動に興味がある: デジタルアイテムの売買や土地の所有など、ブロックチェーン技術を使った新しい経済圏に触れてみたい場合は、『The Sandbox』や『Decentraland』が選択肢になります。ただし、これらは仮想通貨の知識が必要になるため、やや上級者向けです。

まずは、スマートフォンやPCだけで無料で始められるプラットフォームをいくつか試してみて、自分に合うものを見つけるのが良いでしょう。本記事の後半で紹介する「初心者におすすめのメタバースプラットフォーム8選」もぜひ参考にしてください。

② 必要なものを準備する

プラットフォームを選んだら、次に必要なものを準備します。必須のものと、より楽しむためにあると良いものに分けて説明します。

パソコン・スマートフォン

多くのメタバースは、特別な機材がなくても手持ちのパソコンやスマートフォンで始めることができます。 「メタバース=VRゴーグルが必須」というイメージは過去のものです。まずは気軽に、普段使っているデバイスで試してみましょう。

  • スマートフォン: 『cluster』『ZEPETO』『REALITY』『Roblox』など、多くの人気プラットフォームがスマホアプリに対応しています。App StoreやGoogle Playからアプリをダウンロードするだけで、すぐにメタバースの世界に入ることができます。
  • パソコン: より高画質で本格的なメタバースを体験したい場合は、パソコンがおすすめです。『VRChat』やブロックチェーン系のメタバースは、基本的にPCでの利用がメインとなります。ただし、3Dグラフィックスを扱うため、ある程度のスペックが要求される場合があります。特にグラフィックボード(GPU)の性能が重要になるので、プラットフォームが推奨するスペックを確認しておくと安心です。

VRゴーグル(より楽しむために)

メタバースの体験を最大限に楽しみたいのであれば、VRゴーグルの導入を検討しましょう。 VRゴーグルを使うと、視界が360度仮想空間に包まれ、まるで自分がその世界に本当にいるかのような圧倒的な没入感を味わえます。アバターと自分の動きが連動し、手を伸ばせば目の前のものに触れられるかのような感覚は、PCやスマホの画面で見るのとは全く異なる体験です。

現在主流なのは、PCに接続しなくても単体で動作する「スタンドアロン型VRゴーグル」です。Meta社の「Meta Quest 3」などが代表的で、比較的安価(数万円台)でセットアップも簡単なため、初心者にもおすすめです。VRゴーグルは必須ではありませんが、メタバースの真の魅力を体験するためには、非常に強力なアイテムと言えます。

仮想通貨ウォレット(必要な場合)

『The Sandbox』や『Decentraland』のようなブロックチェーン技術を基盤としたメタバースで、NFTアイテムの購入や土地の売買といった経済活動を行いたい場合に必要になるのが、仮想通貨ウォレットです。ウォレットは、仮想通貨やNFTを保管しておくためのデジタル上のお財布のようなものです。

代表的なウォレットには「MetaMask(メタマスク)」などがあり、Webブラウザの拡張機能やスマートフォンアプリとして無料で作成できます。ただし、仮想通貨の取引には手数料(ガス代)がかかったり、秘密鍵の管理を自分自身で厳重に行う必要があったりと、初心者には少しハードルが高いかもしれません。まずはウォレットが不要なプラットフォームから始めて、慣れてきたら挑戦してみるのが良いでしょう。

③ アカウントを作成してログインする

プラットフォームを選び、必要なものが準備できたら、いよいよアカウントを作成します。手順は一般的なWebサービスやSNSとほとんど変わりません。

  1. 公式サイトやアプリにアクセス: 選んだプラットフォームの公式サイトにアクセスするか、スマートフォンにアプリをダウンロードします。
  2. アカウント登録: 「新規登録」「サインアップ」などのボタンから、アカウント作成画面に進みます。多くの場合、以下の方法で登録できます。
    • メールアドレスとパスワードで登録
    • Google、Apple、X(旧Twitter)、FacebookなどのSNSアカウントと連携して登録
  3. アバターの作成: アカウント登録後、多くの場合、最初に自分の分身となるアバターを作成します。顔のパーツ、髪型、体型、服装などを選んで、自分好みのアバターを作りましょう。このプロセス自体もメタバースの楽しみの一つです。
  4. チュートリアルを体験: 初めてログインすると、操作方法などを学ぶためのチュートリアルが用意されていることがほとんどです。まずはチュートリアルに従って、移動やコミュニケーションの基本操作を覚えましょう。

以上のステップで、あなたはメタバースの住民の一員です。最初はどこに行けばいいか戸惑うかもしれませんが、まずは初心者向けのエリアやイベントに参加して、他のユーザーに挨拶してみることから始めてみましょう。メタバースの世界は、きっとあなたを温かく迎えてくれるはずです。

初心者におすすめのメタバースプラットフォーム8選

数あるメタバースプラットフォームの中から、特に初心者でも始めやすく、人気のある8つのサービスを厳選してご紹介します。それぞれの特徴を比較して、あなたにぴったりのメタバースを見つけてください。

プラットフォーム名 特徴 主な用途 対応デバイス 始めやすさ
VRChat 自由度が非常に高いソーシャルVRの代表格。世界最大級のユーザーコミュニティ。 コミュニケーション、イベント、コンテンツ制作 PC, PCVR, Quest △(PC推奨)
cluster 国産でスマホから手軽に参加可能。イベント開催機能が充実。 イベント参加、コミュニケーション スマホ, PC, VR ◎(非常に簡単)
ZEPETO アバターの着せ替えやSNS機能が中心。若年層、特に女性に人気。 アバターファッション、写真撮影、交流 スマホ ◎(非常に簡単)
Roblox ユーザーが制作した無数のゲームで遊べる。ゲーム制作も可能。 ゲーム、コンテンツ制作、交流 スマホ, PC, Xbox, PS ◎(非常に簡単)
The Sandbox ブロックチェーンベース。土地(LAND)の所有やアイテムのNFT化が可能。 NFTゲーム、コンテンツ制作・販売、経済活動 PC △(要ウォレット)
Decentraland ブロックチェーンベース。DAOによる分散型運営が特徴。 NFTゲーム、イベント、経済活動 PC (ブラウザ) △(要ウォレット)
REALITY スマホ向けアバターライブ配信プラットフォーム。 ライブ配信、コミュニケーション スマホ ◎(非常に簡単)
STYLY VR/ARコンテンツの制作・配信に特化。アートやファッション系に強い。 アート鑑賞、クリエイティブ表現 スマホ, PC, VR, AR ○(鑑賞は簡単)

① VRChat

VRChatは、世界で最も有名でユーザー数の多いソーシャルVRプラットフォームの一つです。最大の魅力は、その圧倒的な自由度の高さにあります。ユーザーは、自分で作成したアバターや「ワールド」と呼ばれる仮想空間をアップロードして、世界中の人々と共有できます。そのため、ユーザーが作成した多種多様なワールドが無数に存在し、毎日訪れても飽きることがありません。コミュニケーションが中心で、雑談、ゲーム、ロールプレイング、イベントなど、様々な目的で利用されています。コミュニティ活動が非常に活発で、深夜でも多くのユーザーで賑わっています。本格的に楽しむには高性能なPCとPCVRが推奨されますが、PC単体のデスクトップモードや、一部機能は制限されるもののMeta Quest版でも楽しむことができます。

参照:VRChat Inc. 公式サイト

② cluster (クラスター)

clusterは、日本発のメタバースプラットフォームで、スマートフォン、PC、VRと幅広いデバイスに対応しているのが大きな特徴です。特にスマホアプリの完成度が高く、誰でも手軽に始められるため、初心者には最もおすすめのプラットフォームの一つです。数万人規模のバーチャル音楽ライブやカンファレンスなど、大規模イベントの開催実績が豊富で、個人でも簡単にイベントを開催できる機能が充実しています。アバターやワールドの制作も可能で、クリエイター向けのイベントも頻繁に開催されています。日本語のサポートが手厚く、コミュニティも温かい雰囲気なので、安心してメタバースデビューを飾ることができます。

参照:クラスター株式会社 公式サイト

③ ZEPETO (ゼペット)

ZEPETOは、特に10代〜20代の若者層、中でも女性から絶大な人気を誇る、スマートフォン向けのメタバースアプリです。3Dアバターのカスタマイズ機能が非常に豊富で、詳細なキャラメイクや、実在するファッションブランドのアイテムを使ったコーディネートを楽しめます。作成したアバターを使って、仮想空間内の様々なワールドで他のユーザーと交流したり、写真や動画を撮影してSNSのように投稿したりできます。K-POPアイドルとのコラボなども積極的に行われており、エンターテイメント性の高いプラットフォームです。コミュニケーションよりも、アバターを通じた自己表現や「映え」を重視するユーザーに最適です。

参照:NAVER Z Corporation 公式サイト

④ Roblox (ロブロックス)

Robloxは、「ゲーム版のYouTube」とも呼ばれる、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を中心としたゲームプラットフォームです。ユーザーは、Robloxが提供する開発環境「Roblox Studio」を使ってオリジナルのゲームを制作し、プラットフォーム上で公開することができます。公開されているゲームの数は数千万本以上とも言われ、アクション、レース、RPG、シミュレーションなど、あらゆるジャンルのゲームを基本無料で遊ぶことができます。単にゲームを遊ぶだけでなく、友人と同じゲームワールドに入ってチャットをしながら楽しむソーシャルな側面も強く、子どもたちの間ではコミュニケーションツールとしても定着しています。

参照:Roblox Corporation 公式サイト

⑤ The Sandbox (ザ・サンドボックス)

The Sandboxは、イーサリアムのブロックチェーン技術を基盤とした、ユーザー主導のメタバースプラットフォームです。ボクセル(立方体のブロック)で構成された世界が特徴で、ユーザーは「LAND」と呼ばれる仮想空間上の土地を所有し、その上にオリジナルのゲームやジオラマを制作できます。制作したゲームやキャラクター、アイテムは「NFT」としてマーケットプレイスで売買することが可能です。クリエイターが収益を得られる仕組み(Play to Earn / Create to Earn)が強力で、多くの企業や著名人もLANDを所有して参入しています。始めるには仮想通貨ウォレットが必要など、やや上級者向けですが、Web3時代の新しい経済圏を体験したい方には注目のプラットフォームです。

参照:The Sandbox 公式サイト

⑥ Decentraland (ディセントラランド)

Decentralandは、The Sandboxと並ぶ代表的なブロックチェーンメタバースです。こちらもイーサリアムブロックチェーン上に構築されており、ユーザーはLAND(土地)やウェアラブル(アバターの服)などをNFTとして所有・取引できます。最大の特徴は、DAO(自律分散型組織)によって運営されている点です。プラットフォームのアップデートやルール変更などは、ガバナンストークン(MANA)の保有者による投票によって決定され、中央集権的な管理者が存在しません。まさにWeb3の理念を体現したメタバースと言えます。Webブラウザからアクセスできる手軽さも魅力ですが、経済活動に参加するにはウォレットが必要です。

参照:Decentraland Foundation 公式サイト

⑦ REALITY (リアリティ)

REALITYは、スマートフォン一つで誰でも簡単にアバターの姿でライブ配信ができるプラットフォームです。顔出しせずに、自分好みのアバターでバーチャルYouTuber(VTuber)のような活動ができます。視聴者はコメントやギフトを送って配信者とリアルタイムにコミュニケーションを取ることができ、配信者と視聴者の距離が近いのが特徴です。アバターのカスタマイズも簡単かつ高品質で、配信機能だけでなく、アバター同士で遊べる「ワールド」機能も搭載されています。VTuberに憧れがある方や、気軽にアバターでのコミュニケーションを楽しみたい方におすすめです。

参照:REALITY株式会社 公式サイト

⑧ STYLY (スタイリー)

STYLYは、VR/AR/MRコンテンツを制作・配信するためのクリエイティブプラットフォームです。アーティストやクリエイターが、自身の作品を空間全体で表現するためのツールとして活用しています。ファッション、音楽、映像、グラフィックなど、様々なジャンルのクリエイターによって生み出された、独創的で芸術性の高いVR/AR作品が多数公開されており、ユーザーはそれらを「体験」することができます。他のプラットフォームがコミュニケーションやゲームを主軸に置いているのに対し、STYLYは「XR時代の新たな表現の場」としての側面が強いのが特徴です。アートや最先端の表現に興味がある方は、ぜひ一度その世界に触れてみてください。

参照:株式会社STYLY 公式サイト

メタバースのメリット

新たなコミュニケーションやコミュニティが生まれる、場所や時間の制約なく活動できる、新しいビジネスや経済圏が創出される

メタバースは、単なる新しいテクノロジーというだけでなく、私たちの社会や生活に多くのポジティブな変化をもたらす可能性を秘めています。ここでは、メタバースがもたらす主な3つのメリットについて解説します。

新たなコミュニケーションやコミュニティが生まれる

メタバースがもたらす最大のメリットの一つは、現実世界の様々な制約を超えた、新しい形のコミュニケーションとコミュニティ形成を可能にする点です。

私たちは現実世界では、住んでいる場所、年齢、性別、職業、身体的な特徴など、様々な属性に影響を受けながら生きています。しかし、メタバースではアバターという仮の姿をまとうことで、これらの属性から解放されます。重要なのは「何者であるか」よりも「何に興味があり、何を語り、何を創るか」という内面的な部分です。これにより、普段の生活では出会うことのないような、多様なバックグラウンドを持つ人々と、共通の趣味や関心事を通じてフラットな関係性を築くことができます。

例えば、地方に住んでいて周りに同じ趣味の友人がいない人でも、メタバースに行けば世界中にいる仲間と繋がり、毎晩のように語り合うことができます。身体的な障害により外出が難しい人でも、アバターを通じて自由に仮想空間を駆け巡り、イベントに参加したり友人と遊んだりできます。

このようなコミュニケーションは、孤独感の解消や自己肯定感の向上に繋がり、人々のウェルビーイング(幸福度)を高める効果が期待されています。メタバースは、すべての人々に対して、新たな「居場所」と「繋がり」を提供するポテンシャルを秘めているのです。

場所や時間の制約なく活動できる

メタバースはインターネット上に存在する仮想空間であるため、物理的な場所や時間の制約を一切受けません。これは、私たちの働き方、学び方、そして生活そのものに大きな変革をもたらします。

ビジネスにおいては、リモートワークの質を向上させます。バーチャルオフィスに出勤すれば、世界中のどこにいても同僚と同じ空間で働くことができ、リアルタイムでの共同作業や偶発的なコミュニケーションが促進されます。これにより、企業の生産性向上だけでなく、従業員のワークライフバランスの改善にも繋がります。また、地方や海外に住む優秀な人材を雇用しやすくなるなど、人材活用の面でもメリットは大きいでしょう。

教育の分野では、教育格差の是正に貢献する可能性があります。地理的な問題で質の高い教育を受けられない地域の子どもたちも、メタバース上のバーチャルスクールに参加すれば、優秀な教師の授業を受けたり、世界中の生徒とディスカッションしたりできます。歴史的な建造物を原寸大で再現した空間で歴史を学んだり、人体の内部に入り込んで生命の仕組みを学んだりといった、没入型の体験学習も可能になります。

さらに、地方創生への活用も期待されています。魅力的な観光地をメタバース上に再現し、バーチャルツアーを実施することで、その土地の魅力を世界に発信し、実際の観光誘致に繋げることができます。また、地域の特産品を販売するバーチャルストアを開設することも可能です。

このように、移動に伴う時間やコスト、エネルギー消費を大幅に削減し、あらゆる人々に対して活動の機会を均等に提供できる点は、メタバースの非常に大きな社会的意義と言えるでしょう。

新しいビジネスや経済圏が創出される

メタバースの発展は、全く新しい産業と巨大な経済圏を生み出します。これは、インターネットがeコマースやSNSといった新たな市場を創出したのと同様の、大きなインパクトを持つ変化です。

最も直接的なのが、クリエイターエコノミーの拡大です。ユーザーがアバター、ファッションアイテム、ゲーム、ワールドといったデジタルコンテンツを制作し、それを販売して収益を得るモデルは、すでに多くのプラットフォームで確立されています。これにより、企業に所属せずとも、個人の創造性やスキルを活かして生計を立てる人々が増加していくでしょう。

また、メタバース空間そのものを活用したビジネスも多岐にわたります。バーチャルイベントの企画・運営、仮想空間内の広告事業、企業のメタバース進出を支援するコンサルティング、バーチャル店舗の設計・建築など、新たな職業が次々と生まれています。

NFTとブロックチェーン技術の融合は、この経済圏をさらに加速させます。デジタル資産に本物の所有権と希少性が生まれることで、バーチャル不動産、デジタルアート、ゲーム内アイテムなどが、現実の資産と同様に投資の対象となります。

このように、メタバースは単なるコミュニケーションツールに留まらず、生産、消費、投資といった経済活動が行われる「もう一つの世界」として機能します。この新しいデジタル経済圏の誕生は、既存の産業構造を大きく変え、未来の経済成長を牽引するエンジンとなることが期待されています。

メタバースの課題とデメリット

法律やルールの整備が追いついていない、依存性や中毒性のリスク、利用に必要な機器や環境の準備コスト

メタバースは大きな可能性を秘めている一方で、その発展途上の技術であるがゆえに、解決すべき課題や注意すべきデメリットも存在します。光の部分だけでなく、影の部分も正しく理解しておくことが重要です。

法律やルールの整備が追いついていない

メタバースが急速に発展しているのに対し、それを取り巻く法律や社会的なルールの整備が追いついていないのが現状です。国境を越えた仮想空間で発生する様々な問題に対して、どの国の法律を適用するのか、どのように対処するのかが明確になっていません。

例えば、以下のような問題が懸念されています。

  • アバターの権利: アバターの肖像権や著作権は誰に帰属するのか。他人のアバターを無断で利用したり、誹謗中傷したりした場合の扱いはどうなるのか。
  • デジタル資産の所有権: メタバース内で購入したNFTアイテムや土地の所有権は、法的にどこまで保護されるのか。プラットフォームがサービスを終了した場合、その資産はどうなるのか。
  • ハラスメントや犯罪行為: 仮想空間内でのアバターに対するストーキングやセクシャルハラスメント、詐欺、違法な取引といった犯罪行為にどう対処するか。
  • 未成年者の保護: 未成年者が有害なコンテンツに接触したり、トラブルに巻き込まれたりするリスクから、どのように保護するか。

これらの問題に対して、各国で議論が始まっていますが、世界共通のルールが確立されるまでにはまだ時間がかかります。現状では、各プラットフォームが定める利用規約が主なルールとなっています。メタバースを利用する際は、必ず利用規約をよく読み、自己防衛の意識を持つことが不可欠です。

依存性や中毒性のリスク

VRゴーグルなどを用いた没入感の高いメタバース体験は、非常に魅力的である反面、過度にのめり込むことによる依存性や中毒性のリスクを伴います。

仮想空間でのコミュニケーションや活動が楽しくなりすぎると、現実世界の人間関係や社会生活が疎かになってしまう可能性があります。特に、現実世界で悩みを抱えている人ほど、理想の自分になれるメタバースに逃避し、依存してしまう傾向が指摘されています。

また、長時間の利用は心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。VRゴーグルを長時間装着することによる眼精疲労や「VR酔い」、同じ姿勢を続けることによる運動不足や肩こりなどが懸念されます。

これらのリスクを避けるためには、利用時間を自分でコントロールし、定期的に休憩を取ることが重要です。保護者は、子どもの利用時間や利用内容に気を配り、家庭内でルールを設けるなどの対策が必要でしょう。メタバースは素晴らしい世界ですが、あくまで現実世界での生活が基盤にあることを忘れないようにしたいものです。

利用に必要な機器や環境の準備コスト

メタバースを手軽に始められるプラットフォームが増えている一方で、その魅力を最大限に体験するためには、ある程度の初期投資が必要になるというデメリットもあります。

特に、高画質で美しいグラフィックスのメタバースや、多くのユーザーが同時に集まるワールドを快適に楽しむためには、高性能なゲーミングPCが必要となります。これらは数十万円のコストがかかるため、誰にとっても手軽な出費ではありません。

また、最高の没入感を得るためのVRゴーグルも、数万円から十数万円の費用がかかります。スタンドアロン型VRゴーグルはPC不要で手軽ですが、PCに接続する高性能なモデルと比べると、体験できるコンテンツの質や量に差が出る場合があります。

さらに、快適なメタバース体験には、安定した高速インターネット回線が不可欠です。光回線などの固定回線が推奨され、通信環境が整っていない場合は、その導入コストも考慮しなければなりません。

もちろん、前述の通りスマートフォンだけで楽しめるメタバースも多く存在します。しかし、「メタバース=最先端のCG空間」というイメージを持っている人が、スマホ版を体験した際に「期待したほどではなかった」と感じてしまう可能性も否定できません。参入のハードルが、体験の質によって大きく異なる点は、メタバースが抱える課題の一つです。

メタバースの将来性

拡大が予測される市場規模、Web3との融合による進化、現実世界を再現するデジタルツインの実現

課題やデメリットは存在するものの、メタバースが今後も成長を続け、私たちの社会に大きな影響を与えていくことは間違いないでしょう。ここでは、メタバースの将来性を3つの視点から展望します。

拡大が予測される市場規模

メタバース市場は、今後驚異的なスピードで拡大すると予測されています。世界中の様々な調査会社が、その巨大な成長ポテンシャルを示すレポートを発表しています。

例えば、総務省が公開している「令和5年版 情報通信白書」では、複数の調査会社のデータを引用し、世界のメタバースの市場規模が2021年の約7兆円から、2030年には約124兆円にまで拡大するとの予測を紹介しています。これは、IT、エンターテイメント、小売、製造、教育、医療など、あらゆる産業がメタバースを取り込み、新たなサービスやビジネスモデルを創出していくことを意味します。

この巨大市場の覇権を握るべく、Meta、Microsoft、Apple、Googleといった巨大IT企業はもちろん、様々な業界のリーディングカンパニーが研究開発や投資を加速させています。この官民を挙げた世界的な潮流が、メタバース技術の進化と社会実装を後押しし、市場の成長をさらに加速させるでしょう。この数字は、メタバースが一過性のブームではなく、次世代の社会基盤となる可能性を秘めていることの力強い証左です。

参照:総務省 令和5年版 情報通信白書

Web3との融合による進化

メタバースの未来を語る上で欠かせないのが、Web3(ウェブスリー)との融合です。Web3とは、ブロックチェーン技術を基盤とした、より分散的でユーザー主権の次世代インターネットの概念を指します。

現在の多くのメタバースプラットフォームは、特定の企業によって運営・管理される中央集権的な構造(Web2.0的)を持っています。しかし、Web3の技術が導入されることで、メタバースはよりオープンで民主的な空間へと進化していくと考えられています。

  • 真のデジタル所有権: NFTによって、ユーザーはプラットフォームの垣根を越えて、自分のデジタル資産を真に所有できるようになります。
  • 分散型ガバナンス(DAO): プラットフォームの運営方針やルールが、運営会社ではなく、ユーザーコミュニティ(DAO)の投票によって決定されるようになります。これにより、より公平で透明性の高い運営が実現します。
  • 相互運用性(インターオペラビリティ): 異なるメタバースプラットフォーム間で、アバターやアイテムを自由に持ち運べるようになる未来が期待されています。これが実現すれば、ユーザーは一つのアイデンティティで、巨大な「メタバースのインターネット」を自由に行き来できるようになります。

Web3との融合は、メタバースを単なる企業のサービスから、ユーザーが主役となる公共的な社会インフラへと昇華させる可能性を秘めています。この動きはまだ始まったばかりですが、メタバースの長期的な発展における最も重要なトレンドの一つです。

現実世界を再現するデジタルツインの実現

メタバースの究極的な応用例の一つとして注目されているのが、「デジタルツイン」の実現です。デジタルツインとは、物理的な現実世界(都市、工場、建物、人体など)の情報をリアルタイムで収集し、それを仮想空間上に全く同じように再現(ツイン=双子)する技術です。

デジタルツインを活用することで、現実世界で起こる様々な事象を、仮想空間上でシミュレーションしたり、予測したりすることが可能になります。

  • スマートシティ: 都市全体の交通量や人流、エネルギー消費量などをデジタルツイン上で可視化し、渋滞緩和や効率的な都市計画、災害時の避難シミュレーションなどに活用します。
  • スマートファクトリー: 工場の生産ラインをまるごとデジタルツイン化し、仮想空間で設備の稼働状況を監視したり、新しい生産プロセスのシミュレーションを行ったりすることで、生産性の向上や故障の予知に繋げます。
  • 医療: 患者個人の身体データを基にデジタルツインを作成し、手術のシミュレーションや、新薬の効果予測などに活用することで、より安全で効果的な治療を実現します。

このように、メタバース技術がエンターテイメントやコミュニケーションの領域を超え、現実世界の課題を解決するための強力なツールとして機能する未来が待っています。デジタルツインは、産業のあり方を根底から変え、より安全で持続可能な社会を構築するための基盤技術となるでしょう。

メタバースに関するよくある質問

メタバースは無料で始められるか、スマートフォンだけでも利用できるか、メタバースで稼ぐことはできるか

ここでは、メタバースをこれから始めようとする方が抱きがちな、よくある質問にお答えします。

メタバースは無料で始められますか?

はい、多くのメタバースプラットフォームは基本無料で始めることができます。

アカウントの作成や、基本的なワールドへのアクセス、他のユーザーとのコミュニケーションといった中心的な機能は、無料で提供されていることがほとんどです。『cluster』や『ZEPETO』、『Roblox』などは、スマートフォンアプリをダウンロードすれば、すぐに追加費用なしで楽しむことができます。

ただし、より楽しむためのオプションとして、有料の要素が存在します。例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • アバター用の有料アイテム: 服やアクセサリーなど、よりデザイン性の高いアイテムは有料で販売されています。
  • 有料のワールドやイベント: 特定のクリエイターが作成した高品質なワールドや、アーティストのライブなど、一部のコンテンツは有料チケットが必要な場合があります。
  • NFTアイテムの購入: 『The Sandbox』などのブロックチェーンメタバースで土地やアイテムを購入する場合は、仮想通貨が必要になります。

結論として、メタバースの世界を体験するだけなら無料で十分可能であり、より深く楽しみたい場合に、必要に応じて課金するというスタイルが一般的です。

スマートフォンだけでも利用できますか?

はい、スマートフォンだけでも利用できるメタバースプラットフォームはたくさんあります。

かつては高性能なPCが必須というイメージがありましたが、スマートフォンの性能向上に伴い、スマホに最適化されたメタバースが次々と登場しています。

  • おすすめのスマホ対応プラットフォーム:
    • cluster: 日本語対応でイベントも豊富。初心者でも迷わず楽しめます。
    • ZEPETO: アバターの着せ替えや写真撮影がメイン。SNS感覚で利用できます。
    • REALITY: アバターでのライブ配信が手軽にできます。
    • Roblox: 無数のユーザー制作ゲームを遊ぶことができます。

これらのプラットフォームは、アプリをインストールするだけで、いつでもどこでも気軽にメタバースの世界にアクセスできます。もちろん、PCやVRゴーグルを使った場合に比べてグラフィックの品質や操作性には差がありますが、メタバースの楽しさの入り口として、スマートフォンは非常に優れたデバイスです。まずはスマホで試してみて、もっと本格的に楽しみたくなったらPCやVRの導入を検討するのが良いでしょう。

メタバースで稼ぐことはできますか?

はい、メタバースで収益を得ることは可能ですが、簡単ではありません。

メタバース内での経済活動が活発化するにつれて、個人が収益を得るための様々な方法が生まれています。主に以下のような方法が挙げられます。

  1. クリエイターとしてコンテンツを販売する:
    • アバターやその衣装、アクセサリーなどの3Dアイテムを制作し、マーケットプレイスで販売する。
    • 『Roblox』のように、自分でゲームを開発して公開し、ゲーム内課金などから収益の分配を受ける。
    • 『VRChat』などで魅力的なワールドを制作し、イベントを開催して入場料を得る。
  2. NFTゲームで稼ぐ(Play to Earn):
    • 『The Sandbox』などのブロックチェーンゲームをプレイし、ゲーム内で獲得したアイテムやキャラクターをNFTとして売却する。
  3. イベントの企画・運営:
    • メタバース空間で音楽ライブやセミナー、交流会などを企画し、チケット販売やスポンサーから収益を得る。
  4. デジタルアセットへの投資:
    • 将来性が期待されるメタバースの土地(LAND)や希少なNFTアイテムを安価なうちに購入し、価値が上がった時点で売却して利益を得る。

これらの方法は、いずれも専門的なスキル(3Dモデリング、ゲーム開発など)や知識(ブロックチェーン、マーケティングなど)、そして多くの時間と努力が必要です。「誰でも簡単に稼げる」という甘い言葉には注意し、まずは自分の興味やスキルに合った分野で、楽しみながら挑戦してみることが大切です。

知っておきたいメタバース関連用語

アバター、NFT(非代替性トークン)、ブロックチェーン、XR(VR・AR・MRの総称)、Web3

最後に、メタバースに関する記事やニュースを理解する上で、知っておくと便利な関連用語をいくつか解説します。

アバター

メタバースなどの仮想空間における、ユーザーの「分身」となるキャラクターのこと。ユーザーはアバターを操作して空間内を移動し、他者と交流します。リアルな人間そっくりのものから、アニメキャラクター、動物、ロボットまで、その姿は様々です。アバターを自分好みにカスタマイズすることは、メタバースの大きな楽しみの一つです。

NFT(非代替性トークン)

NFTは「Non-Fungible Token」の略。ブロックチェーン技術を利用して、デジタルデータに唯一無二の価値と所有権を証明するためのものです。コピーが容易なデジタルデータに「本物」という証明を与えることができるため、デジタルアートやゲームアイテム、メタバース上の土地などの所有権を明確にし、資産として取引することを可能にしました。メタバース内の経済圏を支える中核技術です。

ブロックチェーン

取引履歴などのデータを「ブロック」という単位で生成し、それを暗号技術を用いて鎖(チェーン)のように連結して保管する技術のこと。データが分散管理されており、改ざんが極めて困難であるという特徴を持ちます。この技術が、仮想通貨(暗号資産)やNFTの信頼性を担保しており、Web3やメタバース経済圏の基盤となっています。

XR(VR・AR・MRの総称)

XRは「Cross Reality(クロスリアリティ)」の略で、現実世界と仮想世界を融合させることで、新たな体験を創造する技術の総称です。以下の3つの技術が含まれます。

  • VR (Virtual Reality / 仮想現実): 視界を100%デジタル空間で覆い、完全に没入する技術。
  • AR (Augmented Reality / 拡張現実): 現実世界の風景にデジタル情報を重ねて表示する技術。
  • MR (Mixed Reality / 複合現実): ARをさらに発展させ、現実空間と仮想物体が相互に影響し合うように表示する技術。例えば、現実の机の上に仮想のボールを置くと、ボールが机に隠れて見えたり、転がって床に落ちたりします。

Web3

「Web3.0」とも呼ばれます。ブロックチェーン技術を基盤とした、次世代の分散型インターネットの概念。現在のインターネット(Web2.0)が、一部の巨大IT企業(プラットフォーマー)にデータや権力が集中しているのに対し、Web3ではデータや権力をユーザー個人に分散させ、より民主的でオープンなインターネットを目指します。メタバースの将来像と深く結びついています。