「仮想通貨って、ただのデジタルデータでしょ?なんであんなに価値があるの?」
「ビットコインが1,000万円を超えたってニュースで見たけど、仕組みがよくわからない…」
このような疑問を抱いている方は少なくないでしょう。実体を持たないデジタルな通貨が、なぜ数百万、数千万円という価値で取引されるのか、その根拠を理解するのは簡単ではありません。しかし、その背景には、私たちの社会や経済のあり方を変える可能性を秘めた、革新的な技術と仕組みが存在します。
この記事では、仮想通貨(暗号資産)がなぜ価値を持つのか、その核心に迫ります。価値を支える「3つの理由」と、その根拠となる「技術的な仕組み」を、専門用語を交えつつも、初心者の方にも理解できるよう、一つひとつ丁寧に解説していきます。
さらに、法定通貨との違い、価格が変動する要因、将来性、そして取引を始める前に知っておくべき注意点まで、網羅的にご紹介します。この記事を最後まで読めば、仮想通貨の価値の本質を理解し、漠然とした不安や疑問を解消できるはずです。
目次
仮想通貨(暗号資産)とは
仮想通貨の価値を理解するための第一歩として、まずは「仮想通貨(暗号資産)とは何か」という基本的な定義から確認していきましょう。近年、ニュースやインターネットで頻繁に耳にするこの言葉ですが、その正確な意味を把握している人はまだ多くないかもしれません。ここでは、仮想通貨の2つの重要な側面から、その本質に迫ります。
インターネット上で取引されるデジタルな通貨
仮想通貨とは、その名の通り「インターネット上で取引される、物理的な実体を持たないデジタルな通貨」です。日本円の硬貨や紙幣のように手で触れるものは存在せず、すべてのデータは暗号化された上で、インターネット上のネットワークに記録されています。この「暗号化された資産」という性質から、日本では金融庁や財務省をはじめ、公的な文書では「暗号資産」という呼称が用いられています。本記事でも、基本的には仮想通貨と暗号資産を同じ意味の言葉として使用します。
「デジタルな通貨」と聞くと、多くの人が電子マネー(SuicaやPayPayなど)を思い浮かべるかもしれません。どちらも現金を使わずに支払いができる点では似ていますが、その性質は根本的に異なります。
電子マネーは、あくまで「日本円」という法定通貨をデジタル化したものです。私たちがチャージする1,000円は、常に1,000円の価値を持ちます。その価値は日本という国や日本銀行が保証しており、価格が変動することはありません。発行主体は、JR東日本やPayPay株式会社といった特定の企業です。
一方、仮想通貨は、それ自体が独立した価値を持つ通貨です。日本円や米ドルといった法定通貨に裏付けられているわけではなく、その価値は常に変動します。例えば、1ビットコイン(BTC)の価値は、ある日は1,000万円かもしれませんが、次の日には950万円になることも、1,050万円になることもあります。この価値の変動こそが、仮想通貨が投資の対象となる大きな理由の一つです。
まとめると、電子マネーは「円やドルといった法定通貨の代わり」に使うものであるのに対し、仮想通貨は「円やドルと並列に存在する、まったく新しい種類の通貨」と捉えると理解しやすいでしょう。
特定の国や銀行に管理されない通貨
仮想通貨の最も革新的で重要な特徴は、「特定の国や中央銀行に管理されていない」という点です。これを「非中央集権性(Decentralization)」と呼びます。
私たちが普段使っている日本円は、日本銀行が発行と供給量を管理し、その価値は日本政府の信用によって担保されています。同様に、米ドルは連邦準備制度理事会(FRB)が、ユーロは欧州中央銀行(ECB)が管理しています。このように、法定通貨は必ず「中央管理者」が存在する「中央集権型」のシステムです。
しかし、ビットコインをはじめとする多くの仮想通貨には、このような中央管理者が存在しません。特定の企業や組織が発行や取引をコントロールしているわけではなく、世界中のユーザーが参加するネットワークによって、自律的に運営されています。通貨の発行ルールや取引の記録・承認といった作業は、あらかじめプログラムに組み込まれたルールに従って、ネットワーク参加者の協力によって行われます。
この「非中央集権性」は、仮想通貨に多くのメリットをもたらします。例えば、銀行のような仲介機関を必要としないため、国境を越えた送金が非常に速く、手数料も安く済む場合があります。従来の国際送金は、複数の銀行を経由するため数日かかり、手数料も高額になりがちですが、仮想通貨を使えば数分から数十分で、比較的安価な手数料で送金を完了できます。
また、特定の国や政府の経済政策、政治情勢の影響を受けにくいという利点もあります。自国の通貨価値が暴落するようなハイパーインフレに苦しむ国の人々にとっては、資産を保全するための避難先として仮想通貨が利用されるケースもあります。
一方で、この特性はデメリットも内包しています。中央管理者がいないということは、何かトラブルが起きた際に補償してくれる主体が存在しないことを意味します。例えば、自分の不注意で仮想通貨を失ってしまったり、詐欺的な取引に巻き込まれたりしても、基本的には自己責任となります。また、国による価値の保証がないため価格の変動が非常に激しく、価値が安定しにくいという側面もあります。
このように、仮想通貨はインターネット上で機能するデジタルな存在でありながら、中央管理者を持たないという点で、従来の通貨の常識を覆す存在です。この「非中央集権性」こそが、仮想通貨の価値を理解する上で最も重要なキーワードと言えるでしょう。
仮想通貨に価値がある3つの理由
では、なぜ実体がなく、国や銀行の保証もないデジタルデータに、多くの人が価値を見出し、高額で取引するのでしょうか。その理由は、大きく分けて3つあります。「実用性」「希少性」「技術的信頼性」という3つの側面から、仮想通貨の価値の源泉を解き明かしていきます。
① 実用性:決済や送金に使える
価値を持つモノやサービスの多くは、何らかの「実用性」を備えています。通貨における実用性とは、主に「決済」と「送金」の機能です。仮想通貨も、この実用性を備えているからこそ価値を持ちます。
まず「決済手段」としての実用性です。世界中の一部のオンラインショップや実店舗では、すでにビットコインなどの仮想通貨を支払い方法の一つとして導入しています。例えば、大手ECサイトや家電量販店、レストランなどで、商品やサービスの対価として仮想通貨を直接支払うことが可能な場合があります。これにより、ユーザーは法定通貨に両替する手間なく、保有している仮想通貨をそのまま利用できます。
特に国境を越えるEコマース(電子商取引)において、仮想通貨決済は大きな可能性を秘めています。通常、海外のサイトで買い物をする際には、クレジットカード会社などを介して為替手数料が発生しますが、仮想通貨であれば、世界共通の価値基準で直接支払うことができるため、こうしたコストを削減できる可能性があります。
次に「送金手段」としての実用性です。前述の通り、仮想通貨は銀行のような中央集権的な仲介者を必要としないP2P(ピアツーピア)ネットワーク上で直接やり取りされます。これにより、従来の金融システムよりも高速かつ低コストでの送金が実現します。
特に国際送金の分野では、そのメリットが際立ちます。例えば、海外で働く人が母国にいる家族へ仕送りをする場合、従来の銀行送金では数日間の時間と数千円の手数料がかかることが一般的でした。しかし、仮想通貨を利用すれば、時間帯や曜日に関わらず、数分から数十分程度で、はるかに安い手数料で送金を完了させることが可能です。これは、金融インフラが未整備な国や地域に住む人々にとって、非常に重要な意味を持ちます。
さらに、「マイクロペイメント(少額決済)」の分野でも期待が寄せられています。例えば、Web記事を1円単位で購読したり、クリエイターに数十円単位で「投げ銭」をしたりするような超少額の決済は、クレジットカードでは手数料負けしてしまうため実現が困難でした。しかし、送金手数料の安い仮想通貨であれば、こうしたマイクロペイメントが現実的になり、新しい経済圏を生み出す可能性があります。
このように、仮想通貨が決済や送金といった通貨本来の機能を果たせるという「実用性」への期待が、その価値を支える一つの大きな柱となっています。使える場所や用途が増えれば増えるほど、その仮想通貨を欲しいと思う人(需要)が増え、結果として価値が上昇していくのです。
② 希少性:発行される枚数に上限がある
モノの価値は、その「希少性(Scarcity)」によって大きく左右されます。例えば、なぜ金(ゴールド)は価値が高いのでしょうか。それは、美しい輝きや錆びにくい性質に加え、地球上に存在する総量が限られており、簡単には手に入らないからです。もし金が道端の石ころのように無限に存在すれば、誰も高いお金を払ってまで手に入れようとは思わないでしょう。
仮想通貨の多くも、この「希少性」をプログラムによって意図的に作り出すことで、価値を担保しています。その代表例が、世界で最初に作られた仮想通貨であるビットコインです。
ビットコインは、その誕生の時点で総発行量が約2100万枚と厳密に定められています。これ以上、1枚たりとも新規に発行されることはありません。この上限は、ビットコインの設計図であるプログラムに書き込まれており、誰にも変更することはできません。この仕組みは、供給量が無限に増えることで1枚あたりの価値が薄まってしまう「インフレーション(インフレ)」を防ぐために設計されました。
国が管理する法定通貨は、景気対策などの目的で中央銀行が供給量を調整できます。時には大量の紙幣を印刷することもあり、これは通貨価値の下落(インフレ)に繋がるリスクをはらんでいます。一方で、ビットコインのように発行上限が定められている資産は、供給量が固定されているため、インフレが起きにくい(むしろ価値が上昇しやすいデフレ資産である)という特徴があります。
この希少性の高さから、ビットコインは「デジタルゴールド」とも呼ばれます。金と同様に、埋蔵量(発行上限)が限られており、価値の保存手段として機能するという共通点があるからです。世界中の投資家や、自国通貨の価値下落を懸念する人々が、資産の一部をビットコインで保有するのは、この希少性に価値を見出しているためです。
もちろん、すべての仮想通貨に発行上限があるわけではありません。しかし、ビットコインをはじめとする主要な仮想通貨の多くは、発行上限を設定したり、あるいは年間の新規発行量を徐々に減らしていく仕組み(バーンや半減期など)を取り入れたりすることで、意図的に希少性を高めています。
需要が同じか、あるいは増え続ける一方で、供給される量が限られている、もしくは減っていく。この経済学の基本原則こそが、仮想通貨に価値が生まれる2つ目の大きな理由です。人々は、将来的に手に入りにくくなると予想されるものを、今のうちに手に入れておきたいと考えるため、そこに価値が生まれるのです。
③ 技術的信頼性:ブロックチェーン技術で価値が守られている
実用性があり、希少性があったとしても、それが偽造されたり、簡単に盗まれたりするものであれば、誰も価値を認めません。通貨として機能するためには、その正当性や所有権が保証されているという「信頼」が不可欠です。
法定通貨の場合、この信頼は精巧な偽造防止技術や、取引を記録・管理する銀行システム、そしてそれらを支える国の法律によって担保されています。では、特定の管理者がいない仮想通貨は、どのようにして信頼を確保しているのでしょうか。その答えが、仮想通貨の根幹をなす「ブロックチェーン」という革新的な技術です。
ブロックチェーンとは、一言で言えば「取引記録を暗号技術によって鎖(チェーン)のように繋げて、世界中のコンピューターに分散して保存するデータベース」のことです。「分散型台帳技術」とも呼ばれます。
この技術には、極めて高い「耐改ざん性」があります。誰かが不正に取引記録を書き換えようとしても、その記録は世界中の無数のコンピューターにコピーが保存されているため、そのすべてを同時に書き換えることは事実上不可能です。さらに、取引記録は時系列に沿ってブロック単位で繋がっており、後から一部だけを修正すると、それ以降のすべてのブロックとの整合性が取れなくなり、すぐに不正が検知される仕組みになっています。
つまり、「誰が、いつ、誰に、どれだけの仮想通貨を送ったか」というすべての取引履歴が、誰にも改ざんできない形で正確に記録され続けているのです。この堅牢な記録システムがあるからこそ、私たちは「Aさんが持っている1ビットコインは、確かにAさんのものである」と信頼できます。
中央銀行や大手IT企業のような巨大な組織がいなくても、技術そのものが取引の正当性を保証してくれる。この「技術的信頼性」こそが、仮想通貨が通貨として成立するための最も重要な基盤です。人々は、自分たちの資産が数学的・暗号学的な裏付けによって堅牢に守られていることを信頼しているからこそ、仮想通貨に価値を見出し、安心して取引を行うことができるのです。
まとめると、仮想通貨の価値は、「①決済・送金に使えるという実用性」「②発行上限による希少性」「③ブロックチェーンによる技術的信頼性」という3つの柱によって支えられています。これらが相互に作用し合うことで、実体のないデジタルデータに、多くの人々が認める「価値」が生まれているのです。
仮想通貨の価値を支える仕組み
仮想通貨の価値の源泉が「実用性」「希少性」「技術的信頼性」にあることを理解したところで、次に、それらの価値を具体的にどのようにして実現しているのか、その背景にある技術的な「仕組み」を掘り下げていきましょう。ここでは、仮想通貨システムの根幹をなす4つの要素「ブロックチェーン」「P2Pネットワーク」「マイニング」「暗号化技術」について解説します。
ブロックチェーン
ブロックチェーンは、仮想通貨の信頼性を担保する最も重要な技術です。これは「分散型台帳」とも呼ばれ、取引データを記録した「ブロック」を時系列に沿って「チェーン」のように連結して保存するデータベースの一種です。この技術が持つ2つの大きな特徴が、仮想通貨の価値を支えています。
データの改ざんが非常に難しい
ブロックチェーンの最大の特徴は、一度記録されたデータの改ざんが極めて困難である点です。これにはいくつかの理由があります。
第一に、ハッシュ関数による連結です。各ブロックには、一定期間に行われた複数の取引データ(トランザクション)が含まれています。そして、それぞれのブロックは、直前のブロックの内容を要約した「ハッシュ値」という固有のデータを持っています。もし過去のどこかのブロックの取引データを少しでも改ざんすると、そのブロックのハッシュ値が変わり、それ以降に繋がるすべてのブロックのハッシュ値も連鎖的に変わってしまいます。これにより、不正な変更は即座に検知されます。鎖の一部を無理やり変えようとすると、鎖全体が壊れてしまうイメージです。
第二に、データの分散管理です。ブロックチェーンのデータは、特定の会社が管理する中央サーバーに保存されているわけではありません。ネットワークに参加している世界中の多数のコンピューター(ノード)に、同じデータがコピーされて共有されています。仮に悪意のある人物が自分のコンピューター上のデータを改ざんしたとしても、他の大多数のコンピューターが持っている「正しいデータ」と異なるため、その改ざんは無効なものとして拒絶されます。
この仕組みを突破してデータを改ざんするためには、ネットワーク全体の計算能力の51%以上を支配する「51%攻撃」という理論上の手法がありますが、ビットコインのような巨大なネットワークに対してこれを実行するには、天文学的なコストと計算能力が必要となり、現実的にはほぼ不可能とされています。
この強力な耐改ざん性により、「誰がどの通貨をどれだけ保有しているか」という所有権の記録が正確に保たれ、二重支払いや不正な通貨発行を防ぐことができます。これが、中央管理者がいなくても資産の信頼性が保たれる理由です。
システムが止まるリスクが低い
従来の銀行システムやWebサービスは、企業が管理する中央サーバーで稼働しています。このサーバーが災害やサイバー攻撃、あるいはメンテナンスでダウンしてしまうと、サービス全体が停止してしまいます。これを「単一障害点(Single Point of Failure)」と呼びます。
一方、ブロックチェーンは、前述の通り世界中のノードにデータが分散されている「非中央集権型」のシステムです。特定の中心的なサーバーが存在しないため、単一障害点がありません。ネットワークに参加している一部のノードが停止したとしても、他の無数のノードが稼働し続けている限り、システム全体が止まることはありません。
この高い可用性・耐障害性は、24時間365日、世界中のどこからでもアクセスできるグローバルな金融システムを構築する上で非常に重要です。銀行の営業時間や休日に縛られることなく、いつでも送金や決済ができるという仮想通貨の利便性は、この止まらないシステムによって支えられています。
P2P(ピアツーピア)ネットワーク
P2P(ピアツーピア)とは、中央のサーバーを介さずに、ネットワークに参加する個々のコンピューター(ピア)同士が直接、対等な立場でデータをやり取りする通信方式のことです。ブロックチェーンは、このP2Pネットワークを基盤として構築されています。
中央集権型のシステムでは、すべての通信は中央サーバーを経由します。例えば、私たちがSNSに投稿する時、そのデータは一度運営会社のサーバーに送られ、そこから他のユーザーに配信されます。
それに対してP2Pネットワークでは、各ピアがサーバーとクライアントの両方の役割を担います。新しい取引情報が発生すると、あるピアから隣接するピアへ、そしてそのピアからさらに他のピアへと、バケツリレーのように情報が伝播していき、最終的にはネットワーク全体に共有されます。
このP2Pネットワークが、ブロックチェーンの「非中央集権性」と「分散性」を実現しています。特定の管理者がネットワークを支配したり、検閲したりすることが困難であり、すべての参加者が対等な立場でネットワークの維持に貢献します。ブロックチェーンという「台帳」を、P2Pネットワークという「共有手段」を使って、みんなで管理していると考えると分かりやすいでしょう。
マイニング
ブロックチェーン上で新しい取引が発生した際、その取引が正当なものであるかを確認し、複数の取引をまとめて新しいブロックを生成し、既存のチェーンに繋ぎ加える一連の作業を「マイニング(採掘)」と呼びます。そして、この作業を行う人や組織を「マイナー(採掘者)」と呼びます。
マイニングは、仮想通貨システムのセキュリティと安定性を維持するために不可欠なプロセスです。ビットコインなどで採用されている「Proof of Work(PoW)」という仕組みでは、マイナーたちは新しいブロックを生成する権利を得るために、非常に複雑な計算問題を解く競争を行います。この計算には、高性能なコンピューターと大量の電力が必要です。
そして、世界中の誰よりも早くこの計算問題を解くことに成功したマイナーだけが、新しいブロックをチェーンに繋ぐ権利を得て、その報酬として「新規発行される仮想通貨」と「そのブロックに含まれる取引の利用者が支払った手数料」を受け取ることができます。
この報酬がインセンティブとなり、世界中のマイナーたちが競って計算能力を投入するため、ネットワーク全体のセキュリティが強力に保たれます。悪意のある者が不正なブロックを生成しようとしても、正直なマイナーたちの圧倒的な計算能力に打ち勝つことは非常に困難です。
また、マイニングは仮想通貨の新規発行を司る唯一のプロセスでもあります。ビットコインの場合、約10分に1回のペースで新しいブロックが生成され、そのたびに一定量のビットコインがマイニング報酬として新たに生まれます。この発行ペースはプログラムによって厳密に制御されており、ビットコインの希少性を担保する役割も担っています。
つまり、マイニングとは、①取引の承認、②ブロックの生成、③セキュリティの維持、④新規通貨の発行という、仮想通貨システムの中核をなす複数の重要な役割を同時に担う、極めて巧みな仕組みなのです。
暗号化技術
仮想通貨が「暗号資産」と呼ばれる所以は、その仕組みの随所に高度な「暗号化技術」が用いられているからです。特に重要なのが、資産の所有権を証明するために使われる「公開鍵暗号方式」です。
仮想通貨のユーザーは、それぞれ「公開鍵」と「秘密鍵」というペアの鍵を持っています。
- 公開鍵: 口座番号のようなもので、他人から仮想通貨を受け取る際に使用します。この情報は他人に公開しても問題ありません。仮想通貨の「アドレス」は、この公開鍵から生成されます。
- 秘密鍵: 暗証番号や印鑑のように、自分が保有する仮想通貨を送金する際に使用する、本人だけが知るべき情報です。この秘密鍵を知っている者だけが、そのアドレスにある資産を動かすことができます。
誰かがあなたに仮想通貨を送金したい場合、あなたの公開鍵(アドレス)宛に送ります。そして、あなたがその受け取った仮想”通貨を誰かに送りたい場合は、取引情報に自分の「秘密鍵」を使って電子署名を行います。
ネットワーク上の他の参加者は、あなたの「公開鍵」を使えば、その署名が確かにあなたの「秘密鍵」によって行われたものであることを検証できます。しかし、公開鍵から秘密鍵を割り出すことは、現在のコンピューター技術では不可能です。
この仕組みにより、秘密鍵を安全に管理している限り、他人になりすまして資産を不正に送金することは不可能であり、資産の所有権が強固に保護されます。仮想通貨のセキュリティは、この暗号化技術による所有権の証明に大きく依存しているのです。
これらの「ブロックチェーン」「P2Pネットワーク」「マイニング」「暗号化技術」という4つの仕組みが精巧に組み合わさることで、中央管理者がいなくても、安全で信頼性の高い通貨システムが実現され、仮想通貨の価値を技術的に支えているのです。
仮想通貨と法定通貨(円やドル)の主な違い
仮想通貨の価値や仕組みをより深く理解するために、私たちが日常的に使用している「法定通貨」(日本円や米ドルなど)と比較してみましょう。両者には、発行の仕組みから価値の裏付けに至るまで、根本的な違いが存在します。ここでは、特に重要な3つの違いについて解説します。
比較項目 | 仮想通貨(代表例:ビットコイン) | 法定通貨(代表例:日本円) |
---|---|---|
発行者・管理者 | 特定の管理者はいない(非中央集権) | 中央銀行(日本銀行)と政府 |
発行上限 | 上限があることが多い(例:ビットコインは2100万枚) | 基本的には上限はない |
価値の裏付け | 技術への信頼、需要と供給、コミュニティの合意など | 国の信用、法律による強制通用力 |
発行者や管理者の有無
最も大きな違いは、発行や管理を行う中央集権的な組織の有無です。
法定通貨は、その名の通り「法律」によって定められた通貨であり、各国の中央銀行(日本では日本銀行)や政府が発行と管理を一元的に行っています。中央銀行は、金融政策を通じて市場に流通する通貨の量を調整し、物価の安定や経済の健全な成長を目指します。例えば、景気が悪い時には市場にお金を供給し(金融緩和)、景気が過熱している時には市場からお金を吸収する(金融引き締め)といったコントロールを行います。この中央集権的な管理により、通貨価値の急激な変動を抑え、安定した経済活動を支えています。
一方、仮想通貨の多くは、特定の国や企業に依存しない「非中央集権型」のシステムです。ビットコインには、日本銀行やFRBのような中央管理者は存在しません。通貨の発行ルールや取引の承認は、あらかじめ定められたプロトコル(規約)に従い、世界中のネットワーク参加者(ノードやマイナー)によって自律的に実行されます。誰か一人の意向で発行量を増やしたり、取引を止めたりすることはできません。
この違いは、それぞれの通貨の性格に大きく影響します。法定通貨は「安定性」と「管理のしやすさ」がメリットですが、政府や中央銀行の政策次第で価値が左右されるリスクや、インフレのリスクを抱えています。対して仮想通貨は、特定の権力からの独立性や取引の透明性がメリットですが、価値の保証がなく価格が不安定になりやすいというデメリットがあります。
発行上限の有無
次に大きな違いは、通貨の供給量、すなわち発行枚数に上限があるかどうかです。
法定通貨には、原則として発行上限という概念がありません。中央銀行は、経済状況に応じて通貨の供給量を柔軟に調整する必要があるため、理論上は無限に発行することが可能です。これにより、経済成長に合わせた通貨供給や、金融危機への対応が可能になります。しかし、過度な通貨発行は、お金の価値が下がるハイパーインフレーションを引き起こすリスクと常に隣り合わせです。
一方で、仮想通貨、特にビットコインは、プログラムによって発行上限が2100万枚と厳格に定められています。この上限に達すると、新たなビットコインが発行されることは二度とありません。これは、意図的に「希少性」を生み出し、通貨価値の希薄化を防ぐための設計です。金(ゴールド)のように埋蔵量が限られていることに似ているため、インフレヘッジ(インフレによる資産価値の目減りを防ぐ)の手段として注目されています。
もちろん、すべての仮想通貨に発行上限があるわけではありません。イーサリアムのように発行上限が設定されていない通貨や、他の方法で供給量を調整する通貨も存在します。しかし、供給量がプログラムによってコントロールされ、誰かの恣意的な判断で変更できないという点は、多くの仮想通貨に共通する特徴です。
価値の裏付け
最後に、その価値が何によって担保されているかという「価値の裏付け」が根本的に異なります。
法定通貨の価値は、「国家の信用」によって裏付けられています。私たちが1万円札を1万円の価値があると信じて受け取れるのは、日本政府と日本銀行がその価値を保証しているからです。また、法律によって「強制通用力」が与えられており、国内での支払い手段として誰もが受け取らなければならないと定められています。この国家による信用と法律による強制力が、法定通貨の価値の根幹をなしています。
それに対して、仮想通貨には国家のような発行主体による価値の保証や裏付け資産は存在しません。では、何が価値を支えているのかというと、それはこれまで述べてきた要素の総体です。
- 需要と供給のバランス: 発行上限による希少性(供給)と、決済や投資などで使いたいという人々の欲求(需要)のバランスで価格が決まります。
- 技術的な信頼性: ブロックチェーン技術によって、改ざんや二重支払いが困難であり、資産が安全に守られているという技術への信頼。
- ネットワーク効果: 利用者や開発者、マイナーといった参加者が増えれば増えるほど、そのネットワーク全体の利便性と信頼性が高まり、価値が向上するという効果。
- 社会的な合意: 「このデジタルデータには価値がある」と信じる人々の集合的な合意そのものが、価値の源泉となっています。
つまり、法定通貨の価値がトップダウン(国→国民)で与えられるものだとすれば、仮想通貨の価値はボトムアップ(利用者コミュニティ→市場)で形成されるものだと言えます。この「裏付けがない」という点が、仮想通貨の価値を不安定にさせると同時に、既存の金融システムからの独立性を生み出しているのです。
仮想通貨の価値が変動する主な要因
仮想通貨の価値は、法定通貨と比べて非常に大きく、そして頻繁に変動します。この価格変動(ボラティリティ)の大きさは、仮想通貨の最も大きな特徴であり、投資対象としての魅力とリスクの両面を併せ持っています。では、具体的にどのような要因が仮想通貨の価格を動かしているのでしょうか。ここでは、主な4つの要因を解説します。
買いたい人と売りたい人のバランス
最も基本的で直接的な要因は、「需要と供給のバランス」です。これは株式や為替、商品など、あらゆる市場に共通する原則です。仮想通貨を買いたい人(需要)が、売りたい人(供給)を上回れば価格は上昇し、逆に売りたい人が買いたい人を上回れば価格は下落します。
では、どのような時に「買いたい人」が増えるのでしょうか。
- ポジティブなニュース: 大手企業が決済手段として採用した、有名な投資家が購入を公表した、技術的なアップデートが成功した、といった好意的なニュースが出ると、将来性への期待から買いが集まりやすくなります。
- 金融緩和: 世界的な金融緩和政策により、市場に余剰資金が生まれると、その一部がリスク資産である仮想通貨市場に流入し、価格を押し上げることがあります。
- 社会情失勢の不安: 特定の国で通貨危機や政治不安が高まると、自国通貨から資産を退避させるための手段として、国境のない仮想通貨が買われることがあります。
逆に、「売りたい人」が増えるのは以下のようなケースです。
- 利益確定の売り: 価格が十分に上昇したと判断した投資家が、利益を確定させるために売却します。
- ネガティブなニュース: 後述する規制強化のニュースやハッキング事件など、市場心理を悪化させる出来事が起きると、不安に駆られた投資家による「パニック売り(狼狽売り)」が発生し、価格が急落することがあります。
- 金融引き締め: 金融緩和の逆で、金利が引き上げられる局面では、より安全な資産(預金や債券)への資金移動が起こり、仮想通貨のようなリスク資産からは資金が流出しやすくなります。
仮想通貨市場は、株式市場などに比べてまだ歴史が浅く市場規模も小さいため、比較的少額の資金流入・流出でも価格が大きく動きやすいという特徴があります。
国の法律や規制に関するニュース
仮想通貨は、まだ法的な位置づけが世界的に定まっていない、発展途上の資産クラスです。そのため、各国の政府や金融当局が発表する法律や規制に関する方針は、市場に非常に大きな影響を与えます。
ポジティブな影響を与えるニュースの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- ETF(上場投資信託)の承認: 証券取引所で株式のように手軽に仮想通貨に投資できる金融商品(ETF)が承認されると、これまで仮想通貨投資に参入しにくかった機関投資家や個人投資家の資金が流入しやすくなり、大きな買い材料となります。実際に、2024年に米国でビットコイン現物ETFが承認された際には、価格が大きく上昇しました。
- 法整備の進展: 税制の明確化や投資家保護ルールの整備など、仮想通貨を正式な資産として認めるような法整備が進むと、市場の信頼性が高まり、長期的な投資を呼び込む要因となります。
- 国家による採用: 特定の国が仮想通貨を法定通貨として採用する、といったニュースは、実用性の証明として市場に好意的に受け取られます。
一方で、ネガティブな影響を与えるニュースも存在します。
- 取引の禁止・制限: 特定の国が国内での仮想通貨取引を全面的に禁止したり、厳しい制限を課したりすると、その国の需要が失われることへの懸念から価格が下落します。
- マイニングの規制: 環境への負荷などを理由に、政府がマイニング事業を禁止・規制すると、ネットワークの安定性への不安や、マイナーによる保有分の売却などが起こり、売り圧力となります。
- 厳しい課税: 仮想通貨取引による利益に対して高い税率が課されることが決まると、投資妙味が薄れ、市場から資金が流出する可能性があります。
このように、規制の動向は仮想通貨の将来性を左右する重要なファクターであり、投資家は常に世界各国のニュースに注意を払っています。
有名人やインフルエンサーの発言
仮想通貨市場のもう一つの特徴として、著名な起業家や投資家、インフルエンサーといった影響力のある個人の発言が、短期的に価格を大きく動かすことがあります。
例えば、世界的に有名なテクノロジー企業のCEOが、特定の仮想通貨を支持するような発言をSNSに投稿しただけで、その通貨の価格が急騰することがあります。逆に、著名な経済学者や投資家が「仮想通貨はバブルだ」と批判的な見解を示すと、市場心理が悪化し、価格が下落することもあります。
これは、市場参加者に個人投資家が多く、まだ市場全体が成熟していないことの表れでもあります。多くの人々が、専門家や成功者と見なされる人物の意見を判断材料にしているため、その一言一句に市場が過敏に反応してしまうのです。
このような発言による価格変動は、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に基づかない、一時的なものであることが多いため、注意が必要です。インフルエンサーの発言を鵜呑みにするのではなく、その背景にある技術やプロジェクトの実態を自分自身で調べ、冷静に投資判断を下す姿勢が求められます。
取引所のハッキングなどセキュリティの問題
仮想通貨の価値は、その技術的な信頼性によって支えられていますが、ユーザーが実際に取引を行う「仮想通貨取引所」のセキュリティは、市場全体の信頼を揺るがすアキレス腱となり得ます。
過去に何度も、大手仮想通貨取引所がサイバー攻撃を受け、顧客から預かっていた巨額の仮想通貨が流出するという事件が発生しています。このようなハッキング事件が起こると、直接的な被害だけでなく、以下のような複合的な影響で価格が下落します。
- 市場全体の信頼性低下: 「仮想通貨はやはり危ない」というイメージが広がり、新規の投資家が参入をためらったり、既存の投資家が資金を引き上げたりします。
- 盗難された通貨の売却: ハッカーが盗んだ大量の仮想通貨を市場で売却し、現金化しようとすることで、強力な売り圧力となります。
- 規制強化への懸念: 大規模なハッキング事件は、政府や金融当局による規制強化の動きを加速させるきっかけとなることがあり、それを警戒した売りが出ます。
取引所だけでなく、DeFi(分散型金融)プロトコルのプログラムの脆弱性を突かれて資金が流出する事件も頻発しています。セキュリティに関するインシデントは、投資家心理を冷え込ませる最も大きな要因の一つであり、仮想通貨業界全体が取り組むべき重要な課題となっています。
仮想通貨の今後の将来性
仮想通貨は、誕生から十数年を経て、単なる投機の対象から、新たな経済圏を創出する可能性を秘めた技術へと進化を続けています。その将来性は、決済手段としての普及、伝統的金融機関の参入、そして新しい技術との連携という3つの側面から展望することができます。
決済手段としてのさらなる普及
現在、仮想通貨を日常的な決済で利用するには、いくつかの課題が残っています。一つは価格変動(ボラティリティ)の大きさです。今日1,000円の価値があったものが、明日には900円になっている可能性があるため、店舗側も消費者側も決済に使いづらいという側面があります。もう一つはスケーラビリティ問題です。ビットコインのように、1秒間に処理できる取引の数が限られているため、クレジットカードのように世界中で大量の決済を同時に処理することが困難です。
しかし、これらの課題を解決するための技術開発も活発に進められています。
価格変動の問題に対しては、「ステーブルコイン」の活用が期待されています。ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨や金などの資産と価値が連動するように設計された仮想通貨のことです。例えば、1USDC(USD Coin)が常に1米ドルとほぼ同じ価値を保つように作られているため、価格変動を気にすることなく、決済や送金に利用できます。この利便性から、ステーブルコインは国境を越えた取引を中心に利用が拡大しています。
スケーラビリティ問題に対しては、「レイヤー2(セカンドレイヤー)技術」の開発が進んでいます。これは、メインのブロックチェーン(レイヤー1)の外で取引を処理し、最終的な結果だけをブロックチェーンに記録することで、処理速度を飛躍的に向上させ、手数料を大幅に削減する技術です。ビットコインにおける「ライトニングネットワーク」などがその代表例であり、この技術が普及すれば、コーヒー一杯を買うような少額決済でも、仮想通貨がストレスなく利用できるようになる可能性があります。
これらの技術的進歩により、仮想通貨がより実用的な決済手段として社会に浸透していくことが期待されています。
大手企業や金融機関の市場参入
仮想通貨市場が黎明期から成長期へと移行する中で、これまで様子見を続けていた大手企業や伝統的な金融機関(機関投資家)の市場参入が本格化しています。この動きは、市場に大きな変化をもたらす可能性があります。
まず、金融機関の動きとしては、顧客の資産として仮想通貨を安全に保管する「カストディサービス」の提供や、前述した「仮想通貨ETF」の組成・販売などが挙げられます。これにより、これまで仮想通貨投資にアクセスできなかった富裕層や機関投資家が、規制に準拠した形で安全に市場に参加できるようになります。機関投資家の巨大な資金が流入することで、市場の流動性が高まり、価格の安定化にも繋がると期待されています。
また、事業会社の参入も活発化しています。世界的なIT企業や金融サービス企業が、自社のプラットフォームに仮想通貨決済を導入したり、ブロックチェーン技術を活用した新しいサービスを開発したりする動きが相次いでいます。企業が保有資産の一部としてビットコインを購入する例も見られます。
大手企業や金融機関といった「信頼の担い手」が市場に参入することは、仮想通貨の社会的な信用度を向上させ、一般への普及を加速させる大きな要因となります。彼らが提供するサービスを通じて、より多くの人々が安全かつ手軽に仮想通貨に触れる機会が増えていくでしょう。
NFTやDeFiなど新しい技術との連携
仮想通貨の価値は、その通貨自体の機能だけでなく、その基盤技術であるブロックチェーン上で展開される新しいアプリケーションとの連携によっても高まっていきます。特に注目されているのが、「NFT」と「DeFi」です。
NFT(Non-Fungible Token / 非代替性トークン)は、デジタルデータに唯一無二の価値を与え、所有権を証明することができる技術です。これまで簡単にコピーできたデジタルアートや音楽、ゲーム内のアイテムなどに、ブロックチェーン上で固有のシリアル番号を付けることで、「本物の所有者」を証明できるようになりました。このNFTの売買には、イーサリアム(ETH)などの仮想通貨が主に利用されるため、NFT市場が拡大すればするほど、基盤となる仮想通貨への需要も高まります。
DeFi(Decentralized Finance / 分散型金融)は、銀行や証券会社といった中央集権的な仲介者を介さずに、個人間で直接、金融取引(貸し借り、交換、保険など)を行えるようにする仕組みです。スマートコントラクト(契約の自動実行プログラム)を活用し、ブロックチェーン上で自律的に機能します。DeFiを利用することで、より透明性が高く、誰でもアクセス可能な新しい金融サービスが生まれると期待されています。DeFiプロトコル内での取引や運用にも仮想通貨が必須であるため、DeFiの成長は仮想通貨のユースケースを拡大させ、その価値を押し上げる要因となります。
このように、仮想通貨は単なるデジタルマネーに留まらず、NFTやDeFiといったWeb3.0時代の新しい経済圏を支える基盤通貨としての役割を担い始めています。これらのエコシステムが発展していくことが、仮想通貨の長期的な将来性を占う上で非常に重要な鍵となるでしょう。
仮想通貨取引を始める前に知っておきたい注意点
仮想通貨は大きな可能性を秘めた資産ですが、その一方で、他の金融商品にはない特有のリスクも存在します。将来性に期待して取引を始める前に、以下の4つの注意点を必ず理解し、十分な対策を講じることが重要です。
価格変動が大きいリスクを理解する
仮想通貨投資における最大のリスクは、価格変動(ボラティリティ)が極めて大きいことです。株式や為替相場と比べても、その変動率は桁違いに高く、1日で価格が10%以上、時には数十%も上下することが珍しくありません。
このボラティリティの高さは、短期間で大きな利益を得られる可能性がある一方で、投資した資産の価値が半分以下、あるいはそれ以下にまで急落するリスクも常に伴うことを意味します。価格が上昇している局面では楽観的になりがちですが、暴落は突然やってくることもあります。
なぜこれほど価格変動が大きいのかというと、
- 市場規模がまだ比較的小さく、大口の売買に価格が左右されやすい
- 価値の裏付けが明確でなく、ニュースや人々の心理に価格が過剰に反応しやすい
- 規制が未整備で、投機的な資金が流入しやすい
といった理由が挙げられます。仮想通貨は、安定した資産形成を目指すというよりは、高いリスクを取って大きなリターンを狙う「ハイリスク・ハイリターン」な資産であることを、まず最初に肝に銘じておく必要があります。
ハッキングや盗難のリスクに備える
仮想通貨はデジタルデータであるため、サイバー攻撃によるハッキングや盗難のリスクが常に存在します。リスクは大きく分けて2つあります。
一つは、利用している仮想通貨取引所がハッキングされるリスクです。取引所に預けていた資産が流出してしまった場合、取引所によっては補償が行われることもありますが、必ずしも全額が返ってくるとは限りません。取引所を選ぶ際は、セキュリティ対策に定評があり、大手資本が入っているなど信頼性の高いところを選ぶことが重要です。
もう一つは、自分自身のウォレット(仮想通貨を保管する財布)が攻撃されるリスクです。これは自己責任の世界であり、より一層の注意が必要です。
- フィッシング詐欺: 取引所やウォレットサービスを装った偽のメールやサイトに誘導し、IDやパスワード、秘密鍵を盗み取る手口。
- マルウェア感染: パソコンやスマートフォンがウイルスに感染し、キーボードの入力情報を盗まれたり、ウォレット情報が抜き取られたりするケース。
これらのリスクから資産を守るためには、
- 二段階認証を必ず設定する
- パスワードは複雑で使い回さない
- 秘密鍵やリカバリーフレーズは絶対に他人に教えず、オフライン(紙に書くなど)で厳重に保管する
- 安易に怪しいリンクをクリックしたり、ソフトウェアをインストールしたりしない
といった基本的なセキュリティ対策を徹底することが不可欠です。
必ず余剰資金で投資する
これは仮想通貨に限らず、すべての投資に共通する鉄則ですが、仮想通貨の場合は特に重要です。仮想通貨への投資は、必ず「余剰資金」で行ってください。
余剰資金とは、食費や家賃、光熱費といった生活に必要なお金や、近い将来に使う予定のあるお金(教育費や住宅購入の頭金など)を除いた上で、「最悪の場合、すべて失っても生活に影響が出ないお金」のことです。
価格変動が激しいため、生活資金を投じてしまうと、価格が下落した際に冷静な判断ができなくなります。「早く損失を取り戻さなければ」という焦りから、さらにリスクの高い取引に手を出してしまったり(ナンピン買い)、本来売るべきではないタイミングで恐怖から売ってしまったり(狼狽売り)と、不合理な行動に走りやすくなります。
借金をしてまで投資することは論外です。精神的な余裕を持って長期的な視点で投資と向き合うためにも、失ってもよいと思える範囲の金額から始めることが、賢明な投資家になるための第一歩です。
詐欺に悪用される可能性がある
仮想通貨はその新しさや仕組みの複雑さから、残念ながら詐欺(スキャム)の温床となりやすいという側面があります。特に初心者はターゲットにされやすいため、十分に注意が必要です。
よくある詐欺の手口には、以下のようなものがあります。
- ポンジ・スキーム: 「月利〇〇%を保証」「出資者を紹介すればさらに報酬」などと謳い、新規出資者から集めたお金を既存の出資者への配当に回す自転車操業的な詐欺。最終的には破綻します。
- ICO/IEO詐欺: もっともらしい事業計画を掲げた新規プロジェクトへの投資(ICO/IEO)を募り、資金を集めた後にプロジェクトチームが消えてしまう詐欺。
- SNSでの勧誘: 「必ず儲かる」「このコインは次に100倍になる」といった甘い言葉でSNSのDMなどを通じてアプローチし、価値のないコインの購入や詐欺サイトへの送金を促す手口。
「元本保証」「絶対に儲かる」といった言葉が出てきたら、それは100%詐欺だと考えてください。まともな投資に、リターンが保証されているものは存在しません。魅力的な話を持ちかけられてもすぐに飛びつかず、まずはそのプロジェクトや人物について自分自身で徹底的に調べる「DYOR(Do Your Own Research)」の精神が、詐欺から身を守るために最も重要です。
初心者におすすめの仮想通貨取引所3選
仮想通貨取引を始めるには、まず仮想通貨取引所に口座を開設する必要があります。しかし、国内外に数多くの取引所があり、どこを選べばよいか迷ってしまうかもしれません。ここでは、日本の金融庁に登録されており、セキュリティや使いやすさの観点から、特に初心者の方におすすめできる国内の取引所を3つ紹介します。
取引所名 | 取扱通貨数(現物) | 取引形式 | 各種手数料 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
Coincheck | 29種類 | 販売所・取引所 | 入出金・送金に手数料あり | アプリが直感的で使いやすい。NFTマーケットプレイスも運営。 |
GMOコイン | 26種類 | 販売所・取引所 | 日本円の入出金・仮想通貨の預入/送付が無料 | GMOインターネットグループの信頼性。オリコン顧客満足度No.1(※)。 |
DMM Bitcoin | 38種類 | 販売所・BitMatch注文 | 日本円の入出金・仮想通貨の預入/送付が無料 | レバレッジ取引の取扱いが豊富。DMMグループの安心感。 |
※取扱通貨数や手数料は2024年5月時点の情報です。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。 | ||||
※GMOコインの顧客満足度No.1は、2024年 オリコン顧客満足度®調査 暗号資産取引所 現物取引 第1位を指します。 |
① Coincheck(コインチェック)
Coincheckは、スマートフォンのアプリが非常に直感的で分かりやすく、初心者でも迷わずに操作できることから、多くのユーザーに支持されている取引所です。
特徴:
- 圧倒的な使いやすさ: アプリのダウンロード数は国内No.1を誇り、チャート画面の見やすさや売買操作のシンプルさには定評があります。初めて仮想通貨を買うという方でも、スムーズに取引を始められるでしょう。
- 豊富な取扱通貨: ビットコインやイーサリアムといった主要な通貨はもちろん、他の取引所では扱っていないような多様なアルトコインを取り扱っており、様々な通貨に投資してみたい方におすすめです。
- NFTマーケットプレイス: 国内初の暗号資産交換業者運営のNFTマーケットプレイス「Coincheck NFT」を提供しており、仮想通貨取引だけでなく、NFTの売買も同じプラットフォームで手軽に行えます。
注意点:
2018年に大規模なハッキングによる流出事件がありましたが、その後、東証プライム上場企業であるマネックスグループの傘下に入り、経営体制・セキュリティ体制を抜本的に強化しています。現在は業界最高水準のセキュリティを構築していると公表しており、安心して利用できる取引所の一つとなっています。
参照:Coincheck公式サイト
② GMOコイン
GMOコインは、東証プライム上場のGMOインターネットグループが運営しており、その高い信頼性と堅牢なセキュリティ体制が魅力の取引所です。
特徴:
- 各種手数料が無料: 日本円の即時入金・出金手数料や、仮想通貨の預入・送付(出庫)手数料が無料である点は、大きなメリットです。コストを抑えて取引したい方や、ウォレットへの送金などを頻繁に行う方にとっては非常に魅力的です。
- 高い顧客満足度: オリコン顧客満足度調査の「暗号資産取引所 現物取引」ランキングにおいて、2024年に第1位を獲得するなど、実際の利用者から高い評価を得ています。
- 充実したサービス: 現物取引だけでなく、レバレッジ取引、暗号資産FX、貸暗号資産、ステーキングなど、幅広いサービスを提供しており、初心者から上級者まで満足できるラインナップです。
注意点:
GMOコインでは、簡単な操作で売買できる「販売所」と、ユーザー同士で取引する「取引所」の両方を提供しています。初心者は販売所形式が分かりやすいですが、売値と買値の差である「スプレッド」が実質的な手数料となり、取引所形式に比べて割高になる傾向があります。取引に慣れてきたら、コストの安い取引所形式の利用も検討しましょう。
参照:GMOコイン公式サイト
③ DMM Bitcoin
DMM Bitcoinは、動画配信やオンラインゲームなど、多様なサービスで知られるDMM.comグループが運営する取引所です。グループで培われたノウハウを活かした高いセキュリティとサポート体制が特徴です。
特徴:
- レバレッジ取引に強い: 現物取引できる通貨は限られていますが、レバレッジ取引の対象となる通貨(暗号資産)の種類は国内トップクラスです。少ない資金で大きな利益を狙いたい経験者にとっては魅力的な選択肢となります。
- 手数料の安さ: GMOコインと同様に、日本円の入出金手数料や仮想通貨の送付手数料が無料です。また、独自の注文方法である「BitMatch注文」を使えば、販売所で発生するスプレッドを抑えて取引できる可能性があります。
- 充実のサポート体制: 365日、LINEや問い合わせフォームでのサポートに対応しており、初心者でも安心して利用できます。
注意点:
DMM Bitcoinはレバレッジ取引に強みを持つ一方で、現物取引(実際に仮想通貨を保有する取引)で扱っている通貨の種類は他の大手取引所に比べて少ないです。様々なアルトコインを現物で保有したいと考えている場合は、他の取引所と併用することを検討すると良いでしょう。
参照:DMM Bitcoin公式サイト
仮想通貨の価値に関するよくある質問
最後に、仮想通貨の価値に関して多くの人が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
仮想通貨の価値がゼロになることはありますか?
はい、理論的には価値がゼロになる可能性はあります。 実際に、過去には数多くの仮想通貨プロジェクトが失敗し、その通貨の価値がほぼ無価値になった例は無数に存在します(これらは俗に「草コイン」と呼ばれます)。
仮想通貨の価値がゼロになるシナリオとしては、以下のようなものが考えられます。
- 技術的な欠陥の発覚: プログラムに致命的な脆弱性が見つかり、セキュリティが信頼できなくなった場合。
- 需要の喪失: ユーザーや開発者が離れてコミュニティが崩壊し、誰もその通貨を使わなくなった、あるいは欲しがらなくなった場合。
- 法的規制: 世界中の主要国で全面的に禁止されるなど、法的にその存在が許されなくなった場合。
- より優れた競合の登場: 技術的にも性能的にも遥かに優れた代替通貨が登場し、完全に取って代わられてしまった場合。
ただし、これは主に知名度の低い小規模なアルトコインに当てはまるリスクです。ビットコインやイーサリアムのように、世界中に膨大な数のユーザー、開発者、マイナー(あるいはバリデーター)が存在し、強固なネットワーク効果を築いている主要な仮想通貨の価値が、完全にゼロになる可能性は現時点では極めて低いと考えられています。とはいえ、絶対はありませんので、投資する際は常にリスクを念頭に置くことが重要です。
なぜ仮想通貨は「怪しい」と言われることがあるのですか?
仮想通貨に「怪しい」「胡散臭い」といったイメージがつきまとうのには、いくつかの理由が複合的に絡み合っています。
- 価値の源泉が分かりにくい: 国や金のようにはっきりとした「裏付け」がないため、なぜデジタルデータに価値があるのか直感的に理解しづらい。
- 価格変動が激しすぎる: 価値が安定せず、価格が乱高下するため、堅実な資産というよりはギャンブルやマネーゲームのような投機的な対象と見なされがち。
- 犯罪への悪用イメージ: 匿名性の高さを悪用したマネーロンダリング(資金洗浄)や、ランサムウェアの身代金要求に使われるといったニュースが報道されるため、ネガティブなイメージが先行している。
- 詐欺やハッキング事件の多発: 前述の通り、仮想通貨を騙った詐欺や、取引所からの大規模なハッキング事件が後を絶たず、「危険なもの」という印象を与えている。
- 仕組みの複雑さ: ブロックチェーンやマイニングといった専門用語が多く、技術的な仕組みを理解するのが難しいため、敬遠されがち。
これらのイメージは、部分的には事実です。しかし、技術そのものに罪はなく、その応用範囲は金融に留まらず、社会の様々な課題を解決する可能性を秘めています。法整備や技術の成熟が進むにつれて、こうした「怪しい」というイメージは徐々に払拭されていくと考えられます。
一番価値が高い(時価総額が大きい)仮想通貨は何ですか?
2024年5月現在、最も価値が高い(正確には「時価総額」が最も大きい)仮想通貨は、断トツでビットコイン(BTC)です。
時価総額とは、「仮想通貨の現在の価格 × 市場に流通している供給量」で計算される指標で、その仮想通貨の市場における規模や影響力を示すものとされています。
ビットコインは、世界で最初に生まれた仮想通貨であり、「デジタルゴールド」としての地位を確立しています。最も知名度が高く、取引量も最大で、多くの機関投資家の投資対象にもなっています。
時価総額ランキングの2位は、スマートコントラクト機能を持ち、DeFiやNFTの基盤として広く利用されているイーサリアム(ETH)です。この2つが仮想通貨市場における二大巨頭と言えます。それ以降は、ステーブルコインであるテザー(USDT)やUSD Coin(USDC)、BNB、ソラナ(SOL)などが続いていますが、順位は常に変動しています。
仮想通貨の時価総額ランキングは、CoinMarketCapやCoinGeckoといった情報サイトでリアルタイムに確認することができます。市場の動向を把握する上で重要な指標の一つなので、興味のある方はチェックしてみることをおすすめします。